日替わり彼氏
「な、殴られなかった⁉︎」という弥恵の心配をはぐらかし、放課後を迎えた。
そーっと、校門から顔を出す。
誰もいない。
このまま帰ろう。
『放課後、校門に来い』と、とても恋人同士の待ち合わせとは思えない、大輔の言葉。果たし状じゃないんだからさぁ。
でも、居ないものは仕方がない。逃げるなら今!
脱兎のごとく駆け出した私の前に、原付の単車が滑り込んできた。
「どこ、行くんだ?」
大輔が睨みつけてくるので「あはは」と愛想笑いを浮かべる。
「ほらよ」とヘルメットが投げられ、諦めた私はバイクに乗った。
今日1日、今日1日と唱えながら__。
どこを掴んでいいか戸惑っていると、腕を強く掴まれて腰に回される。
しっかり掴んでろ、ということらしい。
バイクが唸りを上げて走り出すと、すぐにスピードが上がった。
振り落とされないように、大輔の腰にしがみついて、大きな背中に密着する。
でも__見た目とは裏腹に、運転は丁寧だ。
もしかしたら、私が後ろに乗っているからかもしれない。
スムーズに車の波に乗ると、頭の中が空っぽになっていく__。
いろいろと気をつかうこともなく、ただこうして同じ景色を楽しむのも、恋人の醍醐味かもしれない。
なんて考えていると、一気に視界が開けて海が見えてきた。
水曜日に見た海とは、格段に違ったんだ。