偽装ウエディング~離婚前夜ですが、抱いて下さい。身ごもりましたが、この子は一人で育てます。~
父は二年前に癌で他界。
板前をしている兄の義彦(ヨシヒコ)が同席した。

「僕と杏花さんの結婚を許して下さい…」

「…私達は大歓迎です…ねぇ―義彦」

「あぁ~玲人さん、本当に杏花みたいな女でいいのか?コイツ…色気ねぇし。可愛くもないぞ」

「お兄ちゃん!?」

お兄ちゃんは昔から私を苛めてばかりで、優しくされた記憶が全くない。

「僕には杏花さんしか居ません…」

玲人さんは隣に座る私の顔に熱い眼差しを注ぐ。

その真剣味の帯びた低い声に私の鼓動はドクンと大きく跳ね上がる。

――――偽装結婚の出来る女性は私しかいない。

彼はそう言っているだけ。

本気で彼の態度と言葉にキモチが流されようとしている私自身に何度も言い聞かせた。

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