金環食をきみに
「ええー、ゴールド?」
またしても意見が対立し、さすがに疲労の色を隠さずに橙子は反発した。
「えー、普通にプラチナがいいよ」
「ありきたりじゃん、プラチナなんて。金の方がゴージャス感があっていいじゃん」
俺も意地になって言った。
「日本の方はプラチナを選ばれる方が多いですけど、英国王室ではイエローゴールドでしたよね」
店員がどちらを擁護するでもない絶妙な言葉を挟みこんでくる。
「あたし結婚指輪はプラチナって昔っから決めてたんだけど」
ショーケースに肘をついて橙子は俺をにらんだ。

「…あのさ」
細かいそばかすの浮かぶ頬に添えられた指先を見つめながら、俺は口を開く。
ガラにもないことを言うときは、長年連れ添った橙子の前でもやっぱり少し、緊張する。
「おまえの指って白くてきれいだからさ。金色の方がなんか、映えると思うんだ。それに」
橙子は黙って姿勢を正した。
「金還食にちなむ意味もあってさ」
雑音が遠ざかる。店員も他の客も、目に入らない。
橙子の頬が薔薇色に染まってゆく。
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