金環食をきみに
そう、2012年のあの朝。
まだただの友達同士だった俺たちは、それぞれの住まいのベランダで空を見上げていた。目には日食グラス、耳には携帯電話をあてて。
「そっち、見える?」
「見える。…あ、欠けてきた欠けてきた」
互いの声を聞きながら、俺たちは少しずつ欠けてゆく太陽を見守った。
「わ、ほんとだ。欠けてく欠けてく」
「意外に進みが早いね」
やがて、天空に厳かな黄金の指輪が浮かんだ。

言葉もなく同じ空を見上げていると、電話越しに橙子がつぶやくように言った。
「ねえ、あたしたちそろそろ付き合わない」
その台詞は、彼女が言わないなら俺が言おうと思っていた。誰の目にも明らかであるくらい、俺たちは既に相思相愛だったから。
「…まあ、悪くないね」
空を見上げたまま答えると、電話の向こうで彼女が微笑む気配がした。
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