金環食をきみに
「――――そうだね、ゴールドも悪くないかも」
店員が持ってきた7号の指輪を左手の薬指にはめて店内の照明にかざしながら、橙子はつぶやいた。
あの日のことを思いだしたのだろう、急に乙女のような表情になっている。その白い指先に、金色はやっぱりとてもよく映えている。
「どちらもとってもお似合いですよ。お客様、お指がほっそりしていらっしゃいますし」
女性店員は如才なく褒め称える。どちらも装着して比べてみるよう彼女が勧めたのだ。
俺も13号の指輪をはめてみる。
あの朝の金環日食の太陽が、小さく指に光っている気がした。


――――だけど。
俺たちがその小さな揃いの太陽を指にはめることはなかった。


結局即決できずに商品カタログのリーフレットだけをもらって帰ったその翌週末、橙子は静かに荷物をまとめて出て行った。
数年前から惰性でずるずる続いていたセフレからのLINEを見られてしまったのだ。
ひとことの言い訳もできなかった。

俺と同じくらい意地っぱりで潔癖で、恋人であり同居人であり、ほんのひととき婚約者でもあったひと。
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