金環食をきみに
***

近年のコーヒーショップは、客が無駄に長居しないよう、あえて足腰にダメージがくるように椅子を設計してあるという。
ただの都市伝説かもしれない。でも今、ガラス越しに雑踏を見下ろすカウンター席で遅刻癖のある恋人を待つ俺の腰は、確実に痛みを増してきている。
苛立ちながら水のグラスを持とうとした右手が、右隣に座る客の左手とぶつかった。
「あっ」
「あ、すみませ――――」
反射的に手を引っこめようとしたとき、視界を金色の光がよぎった。

俺ははっとして相手の顔を見た。
驚きを隠すため口元を覆うそのほっそりした白い指に、金色の指輪が光っていた。
1年前よりずいぶん短くなった髪。頬のそばかす。

その名前を口にしようとしたとき、
「そろそろ出ようか、混んでるし」
彼女の奥に座っていた男性が言った。アイスコーヒーの残りに手を伸ばすその指にも、揃いの金色の指輪が光っている。
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