3時になれば彼女は
「いやいやいやいや」
俺はやっぱり漫画に目線を落としたまま言った。
「おまえそれ、絶対騙されてるって」
できるだけ興味のなさそうな声を出した。
目の前のページには、ヒロインをかばって負傷する主人公がいる。でも実際、漫画の内容なんてまったく頭に入ってこなかった。
「なんで竜(りゅう)が勝手に決めつけるのさ」
千華もどうでもよさそうな返事をして、ごろりと身体を半回転させた。
珍しくスカートを履いた脚が、視界の隅に小さく映る。
その身体が他の男に品定めされたり、…触れられたりするのか?
なんか、変じゃないか? それ。

「誰なのさ、相手」
「21歳の大学生だって」
「どこ大よ」
「埼玉理科大」
ヒッ、と俺は口の中で小さく息を飲む。偏差値の超高いとこじゃねーか。
「…なんで埼玉理科大の人間がわざわざ出会い系なんかやるんだよ」
「そんなんあたしに言われても」
「っつーか」
言いかけて自分の語気の強さに気づき、俺はポテチの袋に手を突っこんだ。
ばりばりばり。
添加物の旨味が少しだけ苛立ちを抑えてくれる。
…苛立ってるのか? 俺は。
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