3時になれば彼女は
千華はむくりとベッドから起き上がった。
「帰んの?」
「うん。明日デートだし」
目の前が暗くなる。
ああ、俺のチープな嘘に彼女を引き止める効力なんてないか。そりゃそうだよな。
「じゃあ、せいぜいご武運を祈ってるよ」
「そっちもね。ご武運を」
ばたん。
千華の締めたドアの音が、部屋に虚ろに響いた。
たった今まで彼女が寝そべっていたベッドに転がると、花のような石鹸のような甘い香りがした。
女の香り。
――――ああ。
突然女になってしまうんじゃない。
千華は女なんだ。最初から。

そして、日曜の午後。
俺は時計の針ばかり見て気もそぞろに過ごした。
3時になれば、千華は行ってしまう。
香水をつけて、ピアスを光らせ、俺の知らない男と一緒に――――。
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