キミ、が欲しい



ぐんぐん追いついて、追い抜かして最初にテープを切った。
まるでボルトみたく力の抜けたゴールの仕方だったように思う。
バトンを返してクラスメートとハイタッチして喜び合った後、向かった先。



「ちょっとトイレ行ってくる〜」と麻衣子たちとは別れ、汗拭きシートで首筋を拭きながら火照った体を少し休ませる。



誰も使っていない教室。
メールの指示通り警戒しながらやって来たハルを中に入れる。
走ってきたのか、額の汗をタオルで拭いてあげると「汚れる」と謙遜しちゃうんだから。



じゃあ、と冷やしておいた汗拭きシートを渡すと「気持ちいい」と喜ぶ。



やっと2人きりになれたね、と言おうとしたら廊下側からバタバタと足音がして思わず2人してしゃがみ息を呑む。
誰も出払っていてこれ以上ないチャンスだと思っていただけにビックリしてしまっていた。



シッと人差し指を口に当てたまま視線だけが絡み合う。
シーンとした空気が再び舞い戻り、安堵の笑みへと変わる。
小さな声で「焦る…」と笑った。



「リレー1位おめでとう」



ハルの方から言ってくれた。
照れくさいけど、こんな素直にありがとうなんて本当久しぶりに言ったんだよ。



「ハルこそ格好良かった」



「いや、追い抜かれそうだったし」



「ハル、私が走り出した時…頑張れー!って言った?」



「う…ん、言った」



クスッと笑う。



「ちゃんと聞こえたよ」



照れながら笑う姿は愛しくて自然と彼の肩に手が伸びる。
グッと近付いたらやっぱりアタフタして、後ずさるもんだからそのまま追い詰める。






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