キミ、が欲しい



教室の後ろ、掃除用具の入ったロッカー。
もう逃げ道なんてないんだよ。
またしても私が壁ドンしてジリジリと距離を詰める。



「ハル……やっぱ邪魔だから取るね?」



「えっ…!?」



足が開いたからすかさず中に入って急接近。
完全にロックオンされたハルのメガネに手が伸びた。
外して視界が悪くなったキミに、ちゃんと焦点が合う位置まで顔を近付ける。



「わっ……結城…さん?」



「キスする時、邪魔だから」



「えっ…!?」



一瞬で茹で上がる顔。
それはいつ見ても微笑ましい。
口なんかパクパクして金魚みたい。
もうキャパ越えしちゃう?



「大丈夫だよハル、深呼吸しよ」



一緒に深呼吸する真似をする。
息を吐いたら頬を両手で包み込む。



「ドキドキしてる?」



「うん…」



「私だってドキドキしてる」



ゆっくり視線を上げてやっと私を見てくれたらもう奪いたくなってる。
こんなに自分を抑えなきゃならないなんて初めて……



「ハル、キスしていい?」



なんて聞くのはイジワルなのかな。
答えに困ってる。
ううん、困らせてる。
それでもそれを上回るくらいキミの瞳に持ってかれてるの。



徐々に顔が近付いていく。



「もう……しちゃうよ?」



返事なんて待たない。
艷やかな唇を奪うだけ。
触れるか触れないかの瞬間、固く目を閉じたキミは俯いて拒んだ。



「俺、キス…下手だからっ…!」






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