キミ、が欲しい



「ちょ、後で桜庭の腹筋触らせてもらおうよ!」



近くでそんな声がしたから迷うことなくその女子の目の前に立ってしまった。



「ダメ。ハルだけは絶対ダメ。」



結城星那だ、と気付いて固まる女子たち。
慌てて麻衣子が止めに入ってくれたけど、その場を離れて会場を後にした。



自分でもわからないくらいの喧嘩腰。
初対面であんなこと言うなんてどうかしてる。
ただならぬ空気に麻衣子も来てくれたのに。



ゾロゾロと出番が終わった男子生徒が更衣室に入っていくのが見えた。
タオルを首にかけたハルが目に入る。
皆が入っていく中、最後に入ろうとしたハルの手を取り更衣室のドアを閉めた。



びっくりさせちゃったけど…ごめん、まだ着替えさせない。
何も言わずに手を引いて少し離れた場所にある使われていない第2更衣室の中に連れ込んだ。



「星那…?」



その唇が私を呼ぶ。
まだ髪が濡れてて水着のまま。
割れた腹筋も目の前に。
ゆっくり背中に手を回し抱きしめる。



「わわ、濡れちゃうよ?」



「いいから…少しの間、こうさせて」



まだ少し体が冷たい。
裸のハル……心臓の音聞こえてきそう。
ギュッと抱きしめてくれる逞しい腕。



「今日の俺、どうだった?」



「格好良かったよ」



「良かった〜」



顔を上げて上目遣いしたらすぐに紅くなるね。



「でも…先に見せてほしかったな」



そう言って腹筋をツンツンしたら恥ずかしそうに仰け反る。
「やめて…」とか私に通用しないのわかってるでしょ。
また追いつめてやるって思ったのに……大きな手が私の頬を包んだ。







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