女嫌い公爵との幸福なる契約結婚生活
青年は、花開いたように無邪気に微笑んだ。

「ようやく思い出してくれましたか。ひどいな、僕はネイト様の奥様があなたと知ってから、お会いできる日を指折り数えていたというのに」

「ごめんなさい。でも、あなたずいぶん背が伸びたし、雰囲気もまったく違ったんですもの。それに、名前もアルではないし……」

「十年経てば、そりゃ変わりますよ。あなたに最後に会ったのは、八歳の頃でしたから。アルはミドルネームで、セドリック・アルバートが僕の本当の名前なんです」

アルは、かつて孤児院にいた子供だ。アイリーンが孤児院で働きはじめたばかりの頃、弟のように面倒を見ていた少年で、八歳になってすぐにどこぞの夫婦に貰われていったのだ。




思わぬ再会を、アイリーンは心の底から喜んだ。不安だらけの新生活をスタートさせたばかりなだけに、家令が懐かしい友人だと知って、喜びもひとしおだ。

「ところで、どうしてこの邸であなたが働いているの?」

「僕の養父は、アッシュフィールド家の執事だったのです。昨年引退してからは、僕がその役目を引き継ぎ、ネイト様のお側にいさせていただいています」

「そうだったのね」

セドリックは泣き虫で、いつもいじめられてはアイリーンの胸に飛び込んで泣きじゃくっていた。その度にアイリーンは彼をあやし、小さな体を抱きしめたものだった。それが今は手に職をつけ立派に働いていると知って、胸が熱くなる。

「奥様、まずは中にお入りになってください。あなたに邸の中を案内するよう、ネイト様に言われていますので。つもる話は、追々していきましょう」
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