女嫌い公爵との幸福なる契約結婚生活
ネイトの部屋は、アイリーンの部屋と変わらない大きさだった。

壁に並んだ書架に、天蓋つきのベッド、机にソファー。不要なものは置かない主義なのか、随分さっぱりとしている。藍色のカーテンの向こうには、青々とした緑が茂っていた。

机に向かって書き物をしていたネイトは、カーテンと同色のソファーに座るようアイリーンを促すと、自身も立ち上がり向かいに腰かけた。



長い足を優雅に掛け合わせ、両腕を組みながら、ネイトはじっとアイリーンを見つめてくる。けれどもそれは、ブライアンがよくそうしたような熱い眼差しではなく、動物か植物でも観察するような、ひどく冷めた視線だった。

改めて見ても、綺麗な人だと思う。けれども彼の美しさには、美しい薔薇が隠し持つ棘のような、人を寄せつけない冷酷さを感じる。

「呼んだのは、結婚の契約事項を確認するためだ」

「契約事項、ですか?」

「ブライアンから聞いていないのか? 彼は、君が契約事項を承諾したと俺に言ったが」

ネイトの表情が、険しくなる。アイリーンは、返事をしあぐねた。下手なことを言ったら、ブライアンの身に危険が及ぶ予感がしたからだ。

「俺がブライアンの結婚を支援する代わりに、彼は俺が求める結婚相手を紹介する。そういう約束だった。表面上は知られていないが、オズモンド家は財政難だったからな。ブライアンがアーチボルト家の娘と結婚することで、オズモンド家は危機を乗り越えた」

(そうだったのね……)

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