女嫌い公爵との幸福なる契約結婚生活
ネイトの部屋を出たアイリーンは、呆然としたまま廊下を横切り自室へとたどり着いた。

無気力なままベッドに腰を下ろし、自分が今置かれている立場を頭の中で整理しようとする。



この結婚に愛はないし、この先も愛が宿ることはない。ネイトにとってアイリーンは、質素で口が堅い、都合のいい飾り妻でしかないのだ。

ブライアンにしろ同じだ。自分の結婚と引き換えに、アイリーンをネイトに差し出したのだから。ブライアンはアイリーンが彼を想っていることを知っていて、結婚条件を突き付けられても断らないだろうと踏んだのだろう。

まるで人ではなく、ものとして扱われているようだ。

自尊心を傷つけられ、アイリーンは落ち込んでいた。それでもアイリーンには、ネイトと離縁するという選択肢は考えられない。

自分よりも、両親とブライアンの方が大事だからだ。

いつだってそうだった。アイリーンにとって、自分という存在は二の次だ。

欲しいものは我慢し、苦しいことも耐える。家は貧しかったし、没落貴族だと何度も後ろ指をさされたことがあったが、アイリーンはいつも自分が耐えることでやり過ごしてきた。

（……大丈夫。きっとうまくいく）

漠然とした不安を抱えながらも、アイリーンは自分に言い聞かせるように、心の中で繰り返しそう唱えた。



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