女嫌い公爵との幸福なる契約結婚生活
第二章 元恋人の真意
翌日から、お飾り妻としてのアイリーンの毎日が始まった。

結婚初日、ネイトと話してすぐに気づいたのだが、この屋敷には女の使用人がいない。洗濯係から料理長に至るまで、どこを見ても男だらけである。どうやら、ネイトの女嫌いが原因のようだ。

セドリック曰く、ネイトは前々から女の使用人で溢れている公爵家で過ごすことに、極端にストレスを感じていたらしい。そのため結婚を口実に本家を離れ、男の使用人だけを引き連れて、隠れるようにこの街外れの邸宅に移り住んだようだ。

ネイトの女嫌いは、セドリックをはじめ、彼と親しいごく少数の使用人しか知らないらしい。社交界では彼は、社交的な紳士を演じきっているようだ。

頭脳明晰で敏腕の王宮騎士隊長が、世間に弱味を握られては都合が悪いのだろう。



アイリーンの朝は早い。十二歳の頃から働いていたのだから、早起きがすっかり身についてしまっている。おまけに近年はダズリー家唯一の侍女であるハンナも年を取り、家事が大変そうだったので、仕事に行く前に家のことも手伝っていた。そのため、まだ日が昇らないうちから目が覚めてしまうのだ。

かといって、アイリーンにはすることがなかった。形ながらも公爵夫人となった今は、さすがに外で働くわけにはいかない。幼い頃から働きづめだったので、これといった趣味もなく、屋敷内をぶらぶら歩きまわることで時間をつぶす毎日だった。

王宮騎士隊長であるネイトは、朝早くから夜遅くまで邸を離れている。見送りや出迎えも一切するなとのことだったので、ますますアイリーンは時間を持て余していた。
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