女嫌い公爵との幸福なる契約結婚生活
「アイリーン様」
あるときルーフテラスにあるソファーに座り、ぼんやり窓の外を眺めていると、背中からトレイを手にしたセドリックに声をかけられた。
セドリックは、ネイトがいる時間にはアイリーンを「奥様」と呼び、そうでないときは「アイリーン様」と呼んだ。名前で呼ばれると、まるで飾り妻という楔から解放されたようで、肩の荷が下りる。
「セドリック、どうしたの?」
「お暇なようですね」
「……そうなの。見ててわかるかしら?」
セドリックは人好きのする笑顔を浮かべながら、アイリーンの前にトレイに乗せていたティーカップを置いた。アップルティーの甘い香りが、鼻孔をくすぐる。「ありがとう、セドリック」とアイリーンは小さく礼を言った。
「公爵夫人のすることといえば、サロンを開くか買い物をするかくらいですからね。そうでない日は、どなただってのんびりされているでしょう。ですが僕は子供の頃、一日中楽しそうに働いていたあなたを見ていましたので、あなたが暇で苦しんでいるのがよくわかるんです」
あるときルーフテラスにあるソファーに座り、ぼんやり窓の外を眺めていると、背中からトレイを手にしたセドリックに声をかけられた。
セドリックは、ネイトがいる時間にはアイリーンを「奥様」と呼び、そうでないときは「アイリーン様」と呼んだ。名前で呼ばれると、まるで飾り妻という楔から解放されたようで、肩の荷が下りる。
「セドリック、どうしたの?」
「お暇なようですね」
「……そうなの。見ててわかるかしら?」
セドリックは人好きのする笑顔を浮かべながら、アイリーンの前にトレイに乗せていたティーカップを置いた。アップルティーの甘い香りが、鼻孔をくすぐる。「ありがとう、セドリック」とアイリーンは小さく礼を言った。
「公爵夫人のすることといえば、サロンを開くか買い物をするかくらいですからね。そうでない日は、どなただってのんびりされているでしょう。ですが僕は子供の頃、一日中楽しそうに働いていたあなたを見ていましたので、あなたが暇で苦しんでいるのがよくわかるんです」