女嫌い公爵との幸福なる契約結婚生活
「いい子ね、ノア。あなたはまだそんなに小さいのに、お父様がお仕事を頑張っているのを分かっているのね」

ノアが、考え込むように押し黙る。

とても賢い子だ、とアイリーンは思った。父親の頑張りをちゃんと理解している。自分が家で大人しくしていなければならないことも、心の奥底では分かっているのだ。

けれども、幼さゆえふとした寂しさに耐え切れず、父親を求めてこの屋敷に赴いてしまうのだろう。

バツが悪そうな顔のノアの頭を、アイリーンは優しくポンと撫でた。

「ねえ、ノア。お父さまのお仕事が終わるまで私と一緒にいてくれる?」

「どうして? アイリーンもさびしいの?」

アイリーンは、一瞬ドキリとした。子供はときに、思いもかけない無邪気さで物事の神髄を突いてくる。

「……ええ、そうよ。寂しいの」

「ふーん」

大きな瞳でまじまじとアイリーンを見つめたあと、ノアはにこっと純真な笑みを見せた。

「いいよ。じゃあ、一緒にいよ」
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