女嫌い公爵との幸福なる契約結婚生活
けれども、ブライアンと付き合い始めて三年目の秋。二十二歳になったアイリーンに、ブライアンは思いもしなかった残酷な言葉を告げた。
「アイリーン、君に伝えなければならないことがある。僕は、アーチボルド家の令嬢と結婚することになった」
その瞬間、アイリーンの世界は灰色に変わった。未来への希望とブライアンへの信頼感が無残にもぎ取られ、まるで体が奈落の底に沈んでいくかのような錯覚に陥った。
けれども没落した男爵家に生まれ、みじめさが身に染みていたアイリーンは、同時に納得もしていた。アーチボルド侯爵家は、現王妃の生家である名門中の名門だ。ブライアンがアーチボルド家の令嬢と結婚すれば、当然彼の家系にも箔がつく。
アイリーンと結婚したところで、ブライアンには何の利益もない。それどころかアイリーンとの結婚を認めてもらうのに何年も奔走させてしまい、申し訳なくすら思っていた。
アイリーンはすうっと息を吸い込むと、すぐに穏やかな表情を取り戻した。
耐えることには、慣れている。自分は他の令嬢のように、華やかな人生とは無縁だ。ブライアンと付き合っていたこの三年は、いわば幻のようなもの。ブライアンを、これ以上困らせてはいけない。好きだからこそ、彼の幸せを後押ししてあげなければならない。
「分かりました。ブライアン様、どうぞお幸せに」
ブライアンを傷つけたくない一心で、アイリーンは平常を装った。
そんなアイリーンを、ブライアンはこちらの胸が痛くなるほど苦しげな表情で見つめていた。
「私は、大丈夫でございます。ですから、私のことは一日も早くお忘れくださいませ」
ブライアンは何かを言いかけ、そしてやめた。結局彼はアイリーンに何も言い残さず、その場から姿を消した。
アイリーンはその時、ブライアンとはもう会うことはないだろうと思っていた。
実際それ以後、ブライアンはアイリーンの勤め先にはぱったりと姿を見せなくなった。
けれども二人が別れてから一カ月後――ブライアンは唐突にアイリーンの前に姿を現した。
そして、アイリーンの両親がいる前で、思いもよらないことを言い出したのである。
「アイリーン、君に伝えなければならないことがある。僕は、アーチボルド家の令嬢と結婚することになった」
その瞬間、アイリーンの世界は灰色に変わった。未来への希望とブライアンへの信頼感が無残にもぎ取られ、まるで体が奈落の底に沈んでいくかのような錯覚に陥った。
けれども没落した男爵家に生まれ、みじめさが身に染みていたアイリーンは、同時に納得もしていた。アーチボルド侯爵家は、現王妃の生家である名門中の名門だ。ブライアンがアーチボルド家の令嬢と結婚すれば、当然彼の家系にも箔がつく。
アイリーンと結婚したところで、ブライアンには何の利益もない。それどころかアイリーンとの結婚を認めてもらうのに何年も奔走させてしまい、申し訳なくすら思っていた。
アイリーンはすうっと息を吸い込むと、すぐに穏やかな表情を取り戻した。
耐えることには、慣れている。自分は他の令嬢のように、華やかな人生とは無縁だ。ブライアンと付き合っていたこの三年は、いわば幻のようなもの。ブライアンを、これ以上困らせてはいけない。好きだからこそ、彼の幸せを後押ししてあげなければならない。
「分かりました。ブライアン様、どうぞお幸せに」
ブライアンを傷つけたくない一心で、アイリーンは平常を装った。
そんなアイリーンを、ブライアンはこちらの胸が痛くなるほど苦しげな表情で見つめていた。
「私は、大丈夫でございます。ですから、私のことは一日も早くお忘れくださいませ」
ブライアンは何かを言いかけ、そしてやめた。結局彼はアイリーンに何も言い残さず、その場から姿を消した。
アイリーンはその時、ブライアンとはもう会うことはないだろうと思っていた。
実際それ以後、ブライアンはアイリーンの勤め先にはぱったりと姿を見せなくなった。
けれども二人が別れてから一カ月後――ブライアンは唐突にアイリーンの前に姿を現した。
そして、アイリーンの両親がいる前で、思いもよらないことを言い出したのである。