女嫌い公爵との幸福なる契約結婚生活
第一章 お飾り妻の困惑
アイリーンの住まいであるダズリー男爵家の応接室は、その日いつになく緊迫した空気が漂っていた。民家にほどちかい広さの、雨漏りの絶えない朽ちかけの邸に、あのオズモンド伯爵家の子息が突然来訪したからだ。
結婚するまでの秘め事として、アイリーンは両親に、ブライアンとの交際を打ち明けていなかった。ブライアンと会うのはいつも屋外だったので、両親は交際はおろか、アイリーンがブライアンと知り合いだということすら知らない。
結局別れたことで、彼とのことは、両親には永遠の秘密となる予定だった。それがどういうわけか、アイリーンと両親は今、彼と向かい合うようにしてソファーに腰かけている。
別れてから一ヶ月、唐突にアイリーンの前に姿を現したブライアンにしても、アイリーンとのかつての関係を口外するつもりはないようだった。あくまでも初めての出会いかのようにアイリーンと挨拶を交わし、他人行儀なすまし顔を浮かべている。
そして応接室に通されて早々、信じられないことを口にしたのだった。
「アッシュフィールド公爵様、ですか……?」
しばらくの間あっけにとられ無言だったアイリーンの母が、思い出したかのように、先ほどブライアンが挙げた名を反芻した。
「そうです、ネイト・ブルーノ・アッシュフィールドです。彼は僕の従兄弟でして。ネイトの母が、私の母の姉にあたるのです」
アイリーンの隣で、父と母が心ここにあらずといったような顔をしている。
「ですが、どうしてうちの娘を……。そもそもアイリーンは、社交界に一度も顔を出したことがございませんのに」
結婚するまでの秘め事として、アイリーンは両親に、ブライアンとの交際を打ち明けていなかった。ブライアンと会うのはいつも屋外だったので、両親は交際はおろか、アイリーンがブライアンと知り合いだということすら知らない。
結局別れたことで、彼とのことは、両親には永遠の秘密となる予定だった。それがどういうわけか、アイリーンと両親は今、彼と向かい合うようにしてソファーに腰かけている。
別れてから一ヶ月、唐突にアイリーンの前に姿を現したブライアンにしても、アイリーンとのかつての関係を口外するつもりはないようだった。あくまでも初めての出会いかのようにアイリーンと挨拶を交わし、他人行儀なすまし顔を浮かべている。
そして応接室に通されて早々、信じられないことを口にしたのだった。
「アッシュフィールド公爵様、ですか……?」
しばらくの間あっけにとられ無言だったアイリーンの母が、思い出したかのように、先ほどブライアンが挙げた名を反芻した。
「そうです、ネイト・ブルーノ・アッシュフィールドです。彼は僕の従兄弟でして。ネイトの母が、私の母の姉にあたるのです」
アイリーンの隣で、父と母が心ここにあらずといったような顔をしている。
「ですが、どうしてうちの娘を……。そもそもアイリーンは、社交界に一度も顔を出したことがございませんのに」