女嫌い公爵との幸福なる契約結婚生活
これほどの良縁を両親が手放すはずもなく、アイリーンの縁談はトントン拍子に進んでいく。

まるで他人事のように、両親とブライアンの会話を耳にしながら、アイリ―ンの気持ちはどこまでも沈み込んでいた。

他の男とアイリーンの結婚話を笑顔で進めるブライアンは、もはやアイリーンに恋心の欠片もなさそうだ。そもそも、既婚者となった彼にそれを求めるのは間違っている。

「ところで、ご本人の意思を聞いていませんでしたね。アイリーン様は、このお話を承諾してくださいますか?」

ブライアンが、ふいに両親との話を中断してアイリーンに問いかけた。

アイリーンを真っすぐに見据えるブライアンは、やはり微笑んではいるが、その瞳に底知れない哀しみを秘めているように感じた。そもそも、彼はこんな目をする人ではなかった。春風のように爽やかで、優しさを宿した彼の眼差しを、今でもはっきり思い出せる。




(もしかしたら、ブライアン様は、私を気遣ってこんなお話を持ち込んだのかしら)

ブライアンは、優しい青年だ。結婚を約束しながら、アイリーンをあっけなくフッてしまったことに、責任を感じているに違いない。

そこで、せめてもの罪滅ぼしにと、良縁を持ってきたのだろう。

アイリーンにも、幸せになってもらいたい。

それが、ブライアンなりの自分に対する愛なのかもしれない。

ならば自分は、ブライアンの気遣いに答えるべきだ。

そもそもブライアンを失ったアイリーンには、もはや結婚を躊躇するしがらみなど何もない。此度の縁談を断ったところで、遅かれ早かれ知らない男に嫁ぐ運命だろう。

だとしたら、ブライアンが持ち込んだこの縁談を受け入れるのが、一番の得策なのではないだろうか。
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