堕天使
時間が止まればいいのにな。

愛菜は思った。

海を見ていると、この空間、この時間は穏やかだから安心なのに。明日になれば地獄がくるとわかりきっている。明日も見えない。何も先が見えてこない。

「私のことさ、阿呆だって思っている?」

まっすぐと海を眺める樹に愛菜は直球で質問してみた。

樹は何も言わない。

「マコトに尽くしすぎちゃったのかな。私の24時間は奴に尽くすだけになっちゃっていたからなぁ」

「……」

「きっと、自分のような阿呆でしょうもない人間は生きる意味なんてないのよ」

「……」

また、泣きそうになった。

わかっていた部分もあるのかもしれない。これは恋愛じゃないと…。それでも失うことが愛菜にとっては恐ろしかった。マコトがいることで自分の存在、未来が明るいものだと思っていたから。

失うことは自分を否定されるものでしかない。


ひたすら黙る樹に腹をたてて。

愛菜は樹を睨んだ。

樹は愛菜をチラッとだけ見て。

ふぅーとため息をついた。

何も喋らないってことは自分の意見を肯定しているってことなのか。

自分で言いだした言葉だが樹に黙られてしまうと、むしょうに腹がたつ。

「…貴女は」

「え?」

小さな声でよくは聞えない。

愛菜は樹の側に駆け寄る。

樹は愛菜を見て少し声を張り上げる。

「貴女は馬鹿ですね」

「はぁ!?」

樹は視線を海のほうへ戻した。


「僕は今迄出会った女性は皆、馬鹿で下劣でしょうもない人間ばかりだと思っていました」

「…そう」

「貴女は自分自身をわかっていないんじゃないですか」

急によくわからない話をされて首を傾げる愛菜。

「…一応、褒めているんですけれども」

「はぁ!? 意味わかんないよ。樹君。ちゃんと話さないと」

樹は愛菜の頭に手をぽんっとのせる。
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