堕天使
「でも、あの男と再会して。あの男の家であんたに会って。それはもしかしたら運命だったのかもしれない」

「ウンメイ?」

「あんたは、他の女とは違った。どこまでもどこまでも一人の人間を思い続けて。馬鹿みたいに考えて、時には泣いて。傷ついても何をされても、ずっとあの男のことを思い続けた」

愛菜は黙りこむ。

「俺は、あの男を思い続けるあんたのことが好きだった。素直で一途で泣いているあんたの顔が好きだった」

初めて。

樹の表情が崩れた気がした。

樹はさみしそうに笑った…気がした。

「あんたが頭打って病院行って。実家に連れ戻された時。正直、安心したんだ。もう、あんたは傷つかなくてすむって」

さみしそうに樹は言う。

愛菜は声が出ない。

「別にあんたと付き合えるとか望んでないし。告白なんてするつもりなかった。たださ」

「な…に?」

「一人の人間を思い続けるのは凄いと思う。俺は羨ましいって思った。だけど、あんたはそれを続ける限り傷ついて傷つけられて。身体ボロボロになって。本当に死ぬだろって思った」

愛菜は顔をおさえた。

樹君がそんなふうに考えているなんて知らなかった。

涙が溢れてくる。

「俺は嫌だ。あんたが死ぬのは嫌だ」

滝のように溢れ出る涙をどうしていいのか愛菜にはわからなかった。

樹はずっと自分を見ていてくれたんだ。

無表情で何を考えているかわからない部分もあったけど。

ずっと彼は自分を見ていてくれたのだ。考えてくれたのだ。
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