堕天使
「あんたはあの男を思い続けるかもしれない。またあの男のところに戻るかもしれない。俺は何も言える立場じゃない。それでも、あんたのことを好きだっていう人間がいる。あんたを必要だっていう人間がいう。それは忘れないで」

「……」

泣いて声が出ない。

愛菜は泣くじゃくる。

樹はわかっている。私はまたマコトのところに戻る可能性があるということを。

仮にマコトが結婚しても。あの男に呼び出されたら自分は簡単に戻ってしまうだろう。

殴られても、傷ついても。

もう、離れられない気がした。

マコトは生活の一部なのだから・・・。


「自分を大切にしてください」

樹は愛菜の頭をなでる。

「貴女は良い女なんだから、自信もって進めばいい」

「…いつきくん」

マコトに酷いことを言われるたびにもっと頑張らなきゃと思った。でも、出来ないこともあった。

そのたびに自分を嫌った。消えてしまえと思った。

愛情なのかさえもわからなかったマコトは確かに出逢ったころは優しくて自分を愛してくれただろう。

でも、時間と共に愛情なんてなかったんだと今になって認識する。

それは殴られている時間にはっきりとわかっていたのに。

考えたくもなくて心に蓋をしてきた。
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