堕天使
愛菜はマコトにキレられた後のことをたいてい覚えていない。

ただ、マコトがいなくなると。

立ち上がって荷物を持って。

出ていく。


一体、何を言われたのか実感すら湧かない。

明日になればまたマコトが笑顔で迎えてくれるんじゃないのかという期待すらする。

それでも、「結婚」という恐れていた言葉が耳から離れない。


いつもはマスクをしてマフラーで顔をぐるぐるに巻けば顔の腫れも目立たなかったし。

人にじろじろと見られることもない。

ただ、今日ばかりは、地獄すぎて。

身につけるのを忘れた。

顔が痛い。

鏡で見ていないからわからないが多分、腫れているだろう。

ケータイの時計は24時。

どうやって帰ればいいのかと口を手で覆う。


何も考えたくもなかった。

とにかく眠ってしまいたい。

愛菜はケータイを取り出すと迷わずに一人の男に電話をする。

もしかしたら、寝ているかもしれない。

無視される可能性だってある。


ガタガタと震える身体。

夜はやっぱり寒い。

「もしもし」

電話が繋がって、愛菜は安心する。

が、声が出なかった。

「もしもし?」

相手の声を聴いて、自分が何をしたいのかわからくなる。

「あの…」

「うん」

「…たすけてください」

小さい声で愛菜は言うと。

急に涙で溢れる。

相手の男は「コンビニで待ってて」と言って一方的に切った。
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