マリンブルーの魔法
セーラは波瑠の方を向き、言う。

「Thank you for meeting（出会ってくれてありがとう）」

優しくそう言われた刹那、波瑠の中に不思議な思いが芽生えた。まるで止まっていた時計の針が少し動いたように、描きかけの絵に絵の具が足されたように、波瑠の中で何かが変化したのだ。

「……私……」

波瑠は空を見上げながら言った。

「ブラック企業に就職したせいで、感情を失ったの」

大学を卒業し、波瑠が就職したのはブラック企業だった。朝から晩まで働かされ、タイムカードを誤魔化すように言われ、残業や休日出勤は当たり前だった。

波瑠は笑うこと、泣くことを忘れて働き続けた。好きなことをする時間などなく、何のために生きているのだろうと何度も波瑠は思った。

そして、あの雨の日のこと、波瑠の運命が大きく変わってしまった。

「君、来月から来なくていいよ」

体調を崩し、一週間休んだ後、波瑠は上司からそう言い渡された。

今まで働いていた場面が波瑠の中に蘇る。感情がぐちゃぐちゃになって、自分が何を感じているのかわからない。
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