したたかな恋人
第11章 本気で好きなんだ
翌日から明日実ちゃんの態度が、冷たくなった。
朝の挨拶をしても無視されるし、コピーを頼もうとしても、どこかへ行ってしまうし。
『ひどい。私に隠れて、杉浦さんに言い寄っていたんですね。』
あの言葉が、胸に刺さる。
明日実ちゃんが、圭司の事を良く思っているのは、知っていた。
圭司がこの会社に入社した時に、『カッコいい』って言ってたから。
でもそれ以降、圭司の事で騒いでなかったし。
明日実ちゃんの気持ちは、憧れで終わっているのだと、勝手に想っていたのだ。
「それが、本当に好きだったとはね。」
密かに圭司への想いを募らせていたと言うのに、私が横取りしたみたいに見えていたら、やっぱり無視したくはなるよね。
「明日実ちゃん、仕事頼みたいんだけど。」
「はい。」
さすがに面と向かって言われると、無視できないみたいで、明日実ちゃんは立ち上がった。
「この発注書、頼みたいんだけど。」
「私今、他の仕事で手が空いていないんです。他の人に頼んで貰っていいですか?」
「えっ……」
今まで一度も仕事を断られた事がなかったせいか、ショックで茫然としていた。
「大丈夫ですか?」
圭司が寄って来てくれた。
それを見て、明日実ちゃんがもっと私を睨む。
「いいのいいの。今回は、私がやるから。」
席に座って、仕切り直し。
「いつも人に頼ってちゃダメね。」
私は改めて、発注書を書く難しさを知った。
「岡。この前の発注書なんだが……」
「はい。」
「本当にこれでいいのか?」
奥田課長から発注書を見せられ、じっと見た。
「ロット数が違うから、とんでもない数が来てしまう。」
「えっ!すみません!いつから変わったんですか?」
「1年前からだよ。」
ロット数が変わったなんて、初歩的なミス。
周りからもクスクスと笑い声が聞こえた。
自分の席に戻ると、明日実ちゃんが私の元にやってきた。
「仕方ないですね、岡さんは。私が発注かけますよ。」
「明日実ちゃん……」
彼女の救いの手に甘え、発注書を預けた。
そして3日後。
企画書のお客様から電話が来た。
『岡さん、プロジェクターが一つも届いてないんだけど、今日の開店に間に合うの?』
「すみません!早急に調査します。」
私は急いで、発注先に連絡した。
『プロジェクター、明日の到着になりますよ。』
発注書は明日実ちゃんが作ってくれたモノで、3日前になっている。
「通常は3日で納品なのではないでしょうか。」
『ああ、それね。締切に間に合わなかったんだわ。』
「締め切りに間に合っていない?締め切りは、18:30ですよね。」
この会社の定時は、18:00だから締め切りに間に合わない方が、珍しい。
『そうだね。18:35分に送信だから、俺達も帰ってるよ。』
「……分かりました。これから取りに行く事は可能ですか?」
『それがもう発送しちゃったよ。』
「予備のプロジェクターをお借りする事はできますか?」
『うーん、何とかするか。3台だったかな。』
電話が終わり、私は奥田課長に、事情を話してプロジェクターを取りに行く事になった。
「どうしてそうなった?」
「それが、あの……」
「正直に言いなさい。」
「発注書が締切を過ぎていて、今日に間に合わなかったんです。」
「発注書を書いたのは?」
「……明日実ちゃんです。」
奥田課長の元に明日実ちゃんは呼ばれ、納品に間に合わなかった事を告げると、彼女は驚くように声を上げた。
「ええ!締め切りが18:30だったんですか?他の発注書と一緒に次々と送信したから、分からなかったです。」
いつもはそんな天然キャラじゃないはずなのに。
「課長。彼女が沢山の仕事を抱えていたのは、私も知っていました。そんな彼女に任せた、私が悪かったんです。」
「なんかその言い方って、私がまるで仕事できない人みたいに聞こえますけど。」
実際納品が間に合っていなかったのは、事実でしょう?
そう言いたいのを押さた。
「課長。先方には予備のプロジェクターを用意して貰えるように伝えてあります。それを預かって、お客様に渡して来ます。」
「一人で大丈夫か?」
「はい。」
すると明日実ちゃんから小さな声で、『いい気味』と聞こえた。
もしかして、明日実ちゃん。
わざとやったの?
私は不安で胸がいっぱいになった。
「岡さん。やっぱり俺も付いて行きます。」
「杉浦君。」
「いいですよね、課長。」
「ああ、いいよ。」
私達は杉浦君の車に乗って、先方に向かった。
「八木は、わざとだよ。」
圭司の言葉に、胸がチクッとした。
「……そうかもしれないわね。彼女、私に”いい気味”って呟いていたから。」
「何の嫌がらせなんだ!」
車はカーブを曲がった。
「明日実ちゃん、圭司の事本気だったみたい。」
「えっ?」
「本気で好きだったのに、私が横取りしたと思っているのね。」
「そんな根も葉もないことを。」
圭司はスピードを出して、先方に早く着くようにしてくれた。
「今度からは、俺が由恵を助けるよ。」
「そんな事してまた明日実ちゃんが、何かしてきたら……」
「その時は、俺が由恵を守るよ。」
そして発注先に着いた。
「お世話になってます、岡です。」
「ああ、電話くれた方?プロジェクター、これでいいかな。」
型は一つ前の物だったが、十分に動く物だった。
「ありがとうございます。一日お借りします。」
「ああ。」
そしてプロジェクターを圭司の車に乗せて、お客様の元へ急いだ。
お客様のお店に着いたのは、開店前の15分前だった。
「あっ、岡さん。間に合った!」
「すみません、遅くなりました。」
急いで圭司とプロジェクターを設置し、PR動画を流す事に成功した。
「よかった、間に合って。」
「ご不安な気持ちにさせてしまって、すみません。」
「いいんだよ。間に合ったんだから。」
お店のPR動画の中に流れる女優さんの笑顔が、私を癒してくれる。
無事、お店を出た私と圭司は、一安心で車に乗った。
「今日は、勉強になったよ。」
「ああ、あれね。実は私、新人の頃に同じ失敗してて、それでね……」
「そうじゃない。由恵は、後輩のミスも自分で巻きとって、自分の成功に繋げるんだな。」
圭司は、私に優しいキスをくれた。
「本気で好きだよ、由恵。俺が由恵を支える。」
「圭司……」
私達は車の中で、熱いキスを何度も重ねた。
「えっ……明日?」
「教えてくれたら、俺が発注しますよ。」
朝の挨拶をしても無視されるし、コピーを頼もうとしても、どこかへ行ってしまうし。
『ひどい。私に隠れて、杉浦さんに言い寄っていたんですね。』
あの言葉が、胸に刺さる。
明日実ちゃんが、圭司の事を良く思っているのは、知っていた。
圭司がこの会社に入社した時に、『カッコいい』って言ってたから。
でもそれ以降、圭司の事で騒いでなかったし。
明日実ちゃんの気持ちは、憧れで終わっているのだと、勝手に想っていたのだ。
「それが、本当に好きだったとはね。」
密かに圭司への想いを募らせていたと言うのに、私が横取りしたみたいに見えていたら、やっぱり無視したくはなるよね。
「明日実ちゃん、仕事頼みたいんだけど。」
「はい。」
さすがに面と向かって言われると、無視できないみたいで、明日実ちゃんは立ち上がった。
「この発注書、頼みたいんだけど。」
「私今、他の仕事で手が空いていないんです。他の人に頼んで貰っていいですか?」
「えっ……」
今まで一度も仕事を断られた事がなかったせいか、ショックで茫然としていた。
「大丈夫ですか?」
圭司が寄って来てくれた。
それを見て、明日実ちゃんがもっと私を睨む。
「いいのいいの。今回は、私がやるから。」
席に座って、仕切り直し。
「いつも人に頼ってちゃダメね。」
私は改めて、発注書を書く難しさを知った。
「岡。この前の発注書なんだが……」
「はい。」
「本当にこれでいいのか?」
奥田課長から発注書を見せられ、じっと見た。
「ロット数が違うから、とんでもない数が来てしまう。」
「えっ!すみません!いつから変わったんですか?」
「1年前からだよ。」
ロット数が変わったなんて、初歩的なミス。
周りからもクスクスと笑い声が聞こえた。
自分の席に戻ると、明日実ちゃんが私の元にやってきた。
「仕方ないですね、岡さんは。私が発注かけますよ。」
「明日実ちゃん……」
彼女の救いの手に甘え、発注書を預けた。
そして3日後。
企画書のお客様から電話が来た。
『岡さん、プロジェクターが一つも届いてないんだけど、今日の開店に間に合うの?』
「すみません!早急に調査します。」
私は急いで、発注先に連絡した。
『プロジェクター、明日の到着になりますよ。』
発注書は明日実ちゃんが作ってくれたモノで、3日前になっている。
「通常は3日で納品なのではないでしょうか。」
『ああ、それね。締切に間に合わなかったんだわ。』
「締め切りに間に合っていない?締め切りは、18:30ですよね。」
この会社の定時は、18:00だから締め切りに間に合わない方が、珍しい。
『そうだね。18:35分に送信だから、俺達も帰ってるよ。』
「……分かりました。これから取りに行く事は可能ですか?」
『それがもう発送しちゃったよ。』
「予備のプロジェクターをお借りする事はできますか?」
『うーん、何とかするか。3台だったかな。』
電話が終わり、私は奥田課長に、事情を話してプロジェクターを取りに行く事になった。
「どうしてそうなった?」
「それが、あの……」
「正直に言いなさい。」
「発注書が締切を過ぎていて、今日に間に合わなかったんです。」
「発注書を書いたのは?」
「……明日実ちゃんです。」
奥田課長の元に明日実ちゃんは呼ばれ、納品に間に合わなかった事を告げると、彼女は驚くように声を上げた。
「ええ!締め切りが18:30だったんですか?他の発注書と一緒に次々と送信したから、分からなかったです。」
いつもはそんな天然キャラじゃないはずなのに。
「課長。彼女が沢山の仕事を抱えていたのは、私も知っていました。そんな彼女に任せた、私が悪かったんです。」
「なんかその言い方って、私がまるで仕事できない人みたいに聞こえますけど。」
実際納品が間に合っていなかったのは、事実でしょう?
そう言いたいのを押さた。
「課長。先方には予備のプロジェクターを用意して貰えるように伝えてあります。それを預かって、お客様に渡して来ます。」
「一人で大丈夫か?」
「はい。」
すると明日実ちゃんから小さな声で、『いい気味』と聞こえた。
もしかして、明日実ちゃん。
わざとやったの?
私は不安で胸がいっぱいになった。
「岡さん。やっぱり俺も付いて行きます。」
「杉浦君。」
「いいですよね、課長。」
「ああ、いいよ。」
私達は杉浦君の車に乗って、先方に向かった。
「八木は、わざとだよ。」
圭司の言葉に、胸がチクッとした。
「……そうかもしれないわね。彼女、私に”いい気味”って呟いていたから。」
「何の嫌がらせなんだ!」
車はカーブを曲がった。
「明日実ちゃん、圭司の事本気だったみたい。」
「えっ?」
「本気で好きだったのに、私が横取りしたと思っているのね。」
「そんな根も葉もないことを。」
圭司はスピードを出して、先方に早く着くようにしてくれた。
「今度からは、俺が由恵を助けるよ。」
「そんな事してまた明日実ちゃんが、何かしてきたら……」
「その時は、俺が由恵を守るよ。」
そして発注先に着いた。
「お世話になってます、岡です。」
「ああ、電話くれた方?プロジェクター、これでいいかな。」
型は一つ前の物だったが、十分に動く物だった。
「ありがとうございます。一日お借りします。」
「ああ。」
そしてプロジェクターを圭司の車に乗せて、お客様の元へ急いだ。
お客様のお店に着いたのは、開店前の15分前だった。
「あっ、岡さん。間に合った!」
「すみません、遅くなりました。」
急いで圭司とプロジェクターを設置し、PR動画を流す事に成功した。
「よかった、間に合って。」
「ご不安な気持ちにさせてしまって、すみません。」
「いいんだよ。間に合ったんだから。」
お店のPR動画の中に流れる女優さんの笑顔が、私を癒してくれる。
無事、お店を出た私と圭司は、一安心で車に乗った。
「今日は、勉強になったよ。」
「ああ、あれね。実は私、新人の頃に同じ失敗してて、それでね……」
「そうじゃない。由恵は、後輩のミスも自分で巻きとって、自分の成功に繋げるんだな。」
圭司は、私に優しいキスをくれた。
「本気で好きだよ、由恵。俺が由恵を支える。」
「圭司……」
私達は車の中で、熱いキスを何度も重ねた。
「えっ……明日?」
「教えてくれたら、俺が発注しますよ。」