したたかな恋人
第15話 主人なの
私は妙子さんと出会った事で、友達が一人増えた。

この前、別なお店でお茶をしていたら、また妙子さんに会って、会話が弾んだ。

「そう言えば、この前の衣装合わせ、先に進んだ?」

妙子さんは、今流行りの麦わら帽子に、フレアスカートが似合っている女性。

そんな人であれば、フレアのドレスもいいんだけど、圭司がスレンダータイプがいいって言うから、まだ迷っている。

「実はまだ決まっていなくて。」

「何で悩んでいるの?」

「ドレスのタイプです。私はフレアでもいいかなって思ってるんですけど、彼が花柄のスレンダータイプがいいって言って。」

「まあ。花柄のドレス?いいじゃない。」

「それには、ダイエットしなきゃいけなくて。」

うんうんと頷く妙子さんを見ると、これってウェディングあるあるなのかな。

「思い切ってダイエットしちゃいなさいよ。結婚式は一生に一度よ。」

「そうですよね。」

まだ迷っている私に、妙子さんは頬杖をついた。

「ははーん。さてはお店の人に、ダイエットコースでも勧められた?」

「はははっ……」

「いいのよ。ダイエットならジムでもできるんだから。」

妙子さんは、本当に面白い。

この人に、悩みなんてあるのかしらと思うくらい前向き。

「ウェディングのダイエットコースだと高いでしょう?そうだ。知り合いのジム、紹介してあげようか。確か今なら入会費無料キャンペーンやってるはず。」

「いえいえ。そんな、」

「いいのいいの。新会員増えた方が、知り合いも喜ぶしね。」

妙子さんは全く嫌みなく、むしろニコニコ笑っている。

「じゃあ、甘えちゃおうかな。」

「そうしなよ。」

そして私は、妙子さんおすすめのジムに、入会する事になった。


「そうだ。妙子さんにお礼しないと。連絡先っと。」

Lineを出し、『ジム、紹介してくれてありがとうございます。』と送信しておいた。

「あっ、そう言えば彼女、インスタもやってるって言ってたっけ。」

私は妙子さんのインスタを開き、彼女の写真を一枚一枚、見て行った。

そして、その瞬間は訪れた。

「えっ……圭司?」

間違いなくそこには、妙子さんと微笑む、圭司の姿があった。

何で、妙子さんと?

少しずつスライドしていくと、二人で海へ行った時の写真とか、頭をくっつけている写真とか、只ならぬ関係を示唆するようなモノが、沢山あった。

もしかして、私遊ばれている?

勢い余って、スマホを落としてしまった。


こういう時って、どうすればいいの?

私の目に、左手の指輪が目に飛び込んできた。


『ずっと一緒にいるよ。』


あの言葉も嘘。

守ってあげるって言われたのも嘘。

結婚したいって言ったのも嘘。

私と妙子さん、どっちが本当の彼女なの?

その答えは出るはずもなく、とうとう圭司が家に泊りに来てしまった。

「浮かない顔だね。」

「そう?」

圭司は私の表情を見て、何かを悟ったみたい。

「具合悪いの?」

「ううん。そんなんじゃないの。」

「でも、顔色が悪い。」

圭司が私の額に手をかざそうとした時、咄嗟にその手を振り払ってしまった。

「由恵?」

「何でもないの。気にしないで。」

結局、圭司の顔をほとんど見る事はできなかった。

素直に聞けばいいじゃない。

この写真は、どうしたのって?

でも聞く勇気がない。

本当に妙子さんと関係があるのであれば、私はどん底に沈んでしまうだろう。

自分を守るために、聞けないのだ。

「由恵。」

圭司が後ろから抱き着いてきた。

「由恵の匂い、甘い香りがする。」

きつく抱きしめられると、圭司は私の首筋に顔を埋めた。

いつもは、ここで欲情する私も、今日は気分が乗らない。

「ごめんなさい。」

私は、圭司の腕を手で剥ぎ取った。

「今日は、疲れているの。」

だけど圭司は、私から離れなかった。

私を自分の方に向け、そして私の心を覗く様に、彼は私を見つめた。

「何かあったの?」

「何もないって。」

「正直に教えて。何でも話して。俺、由恵の力になりたいんだ。」

そんな優しい言葉を言われると、思わず言ってしまいそうになる。

「……新しい友達ができたの。それだけ。」

「そっか。」

そう言うと圭司は、私を包み込むように、抱きしめた。

「だったらいいんだ。由恵。俺達の間に、秘密はなしだよ。俺も何でも話すから。」

「うん。」

私も圭司の事を、そっと抱き締めながら、心の中で思った。

嘘つきだって。

それ以来、圭司と妙子さんの仲を気にして、ぼーっとする事が多くなった。

「こんなんじゃいけない。」

頬を両手で打ち付けて、自分に喝を入れた。

「お茶しにでも行こう。」

お気に入りのバッグを持って、私は外に出た。

そうだ。

この前行った、タピオカ屋さんに行こう。

私は、衣装合わせのお店が近くにある、タピオカ屋さんを選んだ。

衣装合わせには、あれ以来行っていない。

こんな事があって、結婚もするかどうか、迷っているからだ。

それに、もしかしたらだけど、妙子さんに会えるような気がして、ならなかった。

「もう解決させた方がいいわよね。」

そして予感は当たった。

列の最後尾に、偶然にも妙子さんが並んでいたのだ。

私はその後ろに、気づかれぬようにそっと並んだ。

そしてしばらく列が動いたところで、妙子さんの肩を叩いた。

振り返った妙子さんは、私の顔を見て、笑顔になった。

「誰かと思ったら、由恵さんじゃない。」

「こんにちは、妙子さん。」

私も負けじと、にっこり笑った。

「妙子さん、このお店、気に入ったの?」

「そうなの。週に1度は来ているわ。由恵さんも?」

「うん。久々だけど、ここの味が忘れられなくて。」

私は妙子さんに合わせるように、一緒に笑った。

「今日も一緒に飲みましょうよ。」

「そうね。」

タピオカを受け取って、私と妙子さんは、奥の席を選んだ。

「そう言えば、妙子さんのインスタ、見ましたよ。」

「ええ?ありがとう。」

妙子さんは、嬉しそうだ。

「それでね。」

私は妙子さんのインスタを見つけた。

「この、一緒に映ってる人って、誰なんですか?」

圭司と一緒に映ってる画像を、彼女に見せた。

「ああ、これね。」

私は、息をゴクンと飲みこんだ。

「主人よ。一緒に旅行に行った時に撮ったの。」

私はスマホを落としそうになった。
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