したたかな恋人
第7話 囁いてあげる
そして問題は、明日実ちゃんに戻った。
彼女の企画書を見たけれど、一貫性が無く、ダメなものだった。
「明日実ちゃん。この企画書、一貫性がないからやり直してちょうだい。」
「……分かりました。」
そう言って直してきた企画書も、コンセプトがバラバラだった。
「明日実ちゃん。加藤様のお店をどうしたいの?」
明日実ちゃんは、人が変わったように顔が明るくなった。
「ええとですね。私達世代が、気軽に行けるようなコンセプトにしたいんです。」
「例えば?」
「こういうお店って、敷居が高いじゃないですか。和風でもインスタ映えする料理がありますよって言う風にしたいんです。あと、韓国風も流行っているから、それも付け足して……」
「韓国風の料理は、加藤様のお店にないわよ。」
「そこは、加藤様に頑張って貰って。」
私はため息をついた。
「明日実ちゃん。私達の仕事は、加藤様のお店の魅力を最大限にアピールすることよ。加藤様のお店をプロデュースする事じゃないの。」
「解ってまーす。」
解っているなら、最初からそうやってよと、思ったけれど、私はそのセリフを飲み込んだ。
「じゃあ、これやり直してね。」
「もういいんじゃないですか?」
「はあ?」
急に何を言い出すの?
「これで4度目ですよ?私に才能がないのは解りましたから、あとは岡さんがやってくれませんか?」
「このまま私が企画書を直せば、明日実ちゃんの成長を奪う事になるのでしょう?」
「今回はそれでいいです。岡さんの企画書を見て、勉強させて貰います。」
呆れた。その企画書を見て『つまらない』って言ったのは、明日実ちゃんの方じゃない。
「解ったわ。」
私が前を向くと、明日実ちゃんのは、自分の席に戻って行った。
確かに私が最初に考えた企画は、加藤様の印象に凝り固まっていたのかもしれない。
加藤様はそれを打ち破って欲しいと考えている。
それにはやはり、明日実ちゃんの力が必要なんじゃないかって思う。
「明日実ちゃん。」
私が呼ぶと、明日実ちゃんは立ち上がって、私の席に来てくれた。
「私の言い方が悪かったわ。今回は明日実ちゃんの力が必要なの。」
「何回も直されている私の力なんて、たかが知れていると思いますけど。」
「そうじゃないの。新人のあなたの考えが必要なの。まだ一人前じゃない、あなたがね。」
明日実ちゃんは、両手をぎゅっと握った。
「……私は何をすればいいんですか?」
私はニコッと笑った。
「これは私の企画書。あなたがつまらないって言ったモノ。」
「すみません。」
「ううん。いいの。だって本当につまらないんだもの。これに、あなたの考え、確かインスタ映えするモノだったわね。それを取り込んで欲しいの。」
「二つの企画書をくっつける訳ですね。」
「そうね。もっと言えば、私の企画書をあなた色に染めて欲しいの。」
そう言うと明日実ちゃんの表情は、明るくなった。
「はい。やってみます。」
少し肩の荷が下りた私は、休憩室で休んでいた。
「さっきは大変でしたね。」
振り返って見ると、そこには杉浦君が立っていた。
ドキッとした。
どうして、杉浦君を見ただけで、ドキッとするのか。
「けれどさすがだな。あの八木をまたやる気にさせるなんて。」
「そんな事ないわ。思った事を口にしただけよ。」
将成さんに口止めされたのに、この人と仲良くなりたいと考えてしまう。
「それと、この前の事考えてくれた?」
「この前の……事……?」
心臓がドキドキしてくる。
「もう一度言う。俺を選んでくれ。」
「急には無理よ。」
「あの人と、別れる気はないんだろう?だったら、奪うしかない。」
「えっ……」
私は息をゴクンと飲み込んだ。
「どうして、私にそこまで……」
「好きになってしまったんだ。自分のモノにしたいと思うのは、当然だろ。」
心臓の鼓動が止まらない。
私、もしかして……杉浦君に惹かれている?
「由恵……」
私を抱き寄せた杉浦君を、押し放した。
「おまえだけを見ている、俺を信じてくれ。」
「止めて!!」
私は休憩室を出て行こうとした。
「今日、あの店で待っているから!」
その声がやけに、胸に残った。
仕事中も、隣の席に座っている杉浦君が気になって仕方がなかった。
「岡さん、計画書チェックして貰えますか?」
「あっ、うん。」
杉浦君から計画書を渡されると、私はそれに目を通した。
柱がきちんと立っていて、肉付けも面白い。
そして斬新。
ああ、明日実ちゃんに求めていたのは、これだったのかもしれない。
「どうですか?」
「え、ええ。とてもいいと思うわ。一度これを会議にかけてみるわね。」
すると杉浦君は、私の耳元に囁いた。
「今日の事、忘れないで。」
体がドクンっと脈打つ。
それからは、仕事に集中できなかった。
明日実ちゃんに一人前とか、一人前前じゃないとか、そんな話をしておいて、一番私が一人前じゃなかった。
ふと歩みを止めると、あのイタリアンのお店が、目の前に広がる。
中を覗くと、一番手前の席で、杉浦君が待っていてくれた。
私はふいっと顔を背けて、お店を後にした。
でも、気になる。
杉浦君は、今でも待っていてくれるのか。
家に着いて1時間後、私はまたあのお店に行ってみた。
そこにはまだ、杉浦君の姿があった。
「なんで、待ってるのよ。」
「由恵は来てくれると思って。」
「来なかったら?」
「それでも、来てくれた。」
私達はキスをすると、お互いを見つめ合った。
「由恵の部屋に行きたい。」
「そ、そんなっ。」
急にそんな事言われても、部屋だって片付けないといけないし。
「今夜由恵を抱く。それともホテルに行く?」
胸が熱くなった。
「抱くって……お願いされても……」
「お願いじゃない。君を抱くって言ったら抱く。」
額に軽いキスをされて、お泊りセットを持っていない私は、自分の部屋に行く事を承諾した。
タクシーで家に帰る途中、隣にいる杉浦君がカッコよく見えた。
この人はどうしてそんなにも、女性に対して自信があるのだろう。
家に着いて寝室に行くと、上着を脱いだ杉浦君が、熱いキスをしてきた。
服をスルッと脱がされて、あっという間に裸にされた。
「綺麗だ。」
その言葉に、ドキッとする。
そんなの、将成さんにだって言われているのに、どうして杉浦君だと身体が感じてしまうのだろう。
「この身体を抱けると思うと、優越感に浸れるよ。」
「あっ……」
杉浦君と一つになると、彼の気持ちが体に伝わって来た。
「ぁぁ……激しい……」
「激しくもなるよ。由恵をずっと自分のモノにしたかったんだ。」
杉浦君の吐息が、耳元で聞こえる。
「甘い言葉が好きなら、毎晩囁いてやるよ。もう俺のモノになれ。」
その強い言葉に、私の体も反応してしまうのだった。
彼女の企画書を見たけれど、一貫性が無く、ダメなものだった。
「明日実ちゃん。この企画書、一貫性がないからやり直してちょうだい。」
「……分かりました。」
そう言って直してきた企画書も、コンセプトがバラバラだった。
「明日実ちゃん。加藤様のお店をどうしたいの?」
明日実ちゃんは、人が変わったように顔が明るくなった。
「ええとですね。私達世代が、気軽に行けるようなコンセプトにしたいんです。」
「例えば?」
「こういうお店って、敷居が高いじゃないですか。和風でもインスタ映えする料理がありますよって言う風にしたいんです。あと、韓国風も流行っているから、それも付け足して……」
「韓国風の料理は、加藤様のお店にないわよ。」
「そこは、加藤様に頑張って貰って。」
私はため息をついた。
「明日実ちゃん。私達の仕事は、加藤様のお店の魅力を最大限にアピールすることよ。加藤様のお店をプロデュースする事じゃないの。」
「解ってまーす。」
解っているなら、最初からそうやってよと、思ったけれど、私はそのセリフを飲み込んだ。
「じゃあ、これやり直してね。」
「もういいんじゃないですか?」
「はあ?」
急に何を言い出すの?
「これで4度目ですよ?私に才能がないのは解りましたから、あとは岡さんがやってくれませんか?」
「このまま私が企画書を直せば、明日実ちゃんの成長を奪う事になるのでしょう?」
「今回はそれでいいです。岡さんの企画書を見て、勉強させて貰います。」
呆れた。その企画書を見て『つまらない』って言ったのは、明日実ちゃんの方じゃない。
「解ったわ。」
私が前を向くと、明日実ちゃんのは、自分の席に戻って行った。
確かに私が最初に考えた企画は、加藤様の印象に凝り固まっていたのかもしれない。
加藤様はそれを打ち破って欲しいと考えている。
それにはやはり、明日実ちゃんの力が必要なんじゃないかって思う。
「明日実ちゃん。」
私が呼ぶと、明日実ちゃんは立ち上がって、私の席に来てくれた。
「私の言い方が悪かったわ。今回は明日実ちゃんの力が必要なの。」
「何回も直されている私の力なんて、たかが知れていると思いますけど。」
「そうじゃないの。新人のあなたの考えが必要なの。まだ一人前じゃない、あなたがね。」
明日実ちゃんは、両手をぎゅっと握った。
「……私は何をすればいいんですか?」
私はニコッと笑った。
「これは私の企画書。あなたがつまらないって言ったモノ。」
「すみません。」
「ううん。いいの。だって本当につまらないんだもの。これに、あなたの考え、確かインスタ映えするモノだったわね。それを取り込んで欲しいの。」
「二つの企画書をくっつける訳ですね。」
「そうね。もっと言えば、私の企画書をあなた色に染めて欲しいの。」
そう言うと明日実ちゃんの表情は、明るくなった。
「はい。やってみます。」
少し肩の荷が下りた私は、休憩室で休んでいた。
「さっきは大変でしたね。」
振り返って見ると、そこには杉浦君が立っていた。
ドキッとした。
どうして、杉浦君を見ただけで、ドキッとするのか。
「けれどさすがだな。あの八木をまたやる気にさせるなんて。」
「そんな事ないわ。思った事を口にしただけよ。」
将成さんに口止めされたのに、この人と仲良くなりたいと考えてしまう。
「それと、この前の事考えてくれた?」
「この前の……事……?」
心臓がドキドキしてくる。
「もう一度言う。俺を選んでくれ。」
「急には無理よ。」
「あの人と、別れる気はないんだろう?だったら、奪うしかない。」
「えっ……」
私は息をゴクンと飲み込んだ。
「どうして、私にそこまで……」
「好きになってしまったんだ。自分のモノにしたいと思うのは、当然だろ。」
心臓の鼓動が止まらない。
私、もしかして……杉浦君に惹かれている?
「由恵……」
私を抱き寄せた杉浦君を、押し放した。
「おまえだけを見ている、俺を信じてくれ。」
「止めて!!」
私は休憩室を出て行こうとした。
「今日、あの店で待っているから!」
その声がやけに、胸に残った。
仕事中も、隣の席に座っている杉浦君が気になって仕方がなかった。
「岡さん、計画書チェックして貰えますか?」
「あっ、うん。」
杉浦君から計画書を渡されると、私はそれに目を通した。
柱がきちんと立っていて、肉付けも面白い。
そして斬新。
ああ、明日実ちゃんに求めていたのは、これだったのかもしれない。
「どうですか?」
「え、ええ。とてもいいと思うわ。一度これを会議にかけてみるわね。」
すると杉浦君は、私の耳元に囁いた。
「今日の事、忘れないで。」
体がドクンっと脈打つ。
それからは、仕事に集中できなかった。
明日実ちゃんに一人前とか、一人前前じゃないとか、そんな話をしておいて、一番私が一人前じゃなかった。
ふと歩みを止めると、あのイタリアンのお店が、目の前に広がる。
中を覗くと、一番手前の席で、杉浦君が待っていてくれた。
私はふいっと顔を背けて、お店を後にした。
でも、気になる。
杉浦君は、今でも待っていてくれるのか。
家に着いて1時間後、私はまたあのお店に行ってみた。
そこにはまだ、杉浦君の姿があった。
「なんで、待ってるのよ。」
「由恵は来てくれると思って。」
「来なかったら?」
「それでも、来てくれた。」
私達はキスをすると、お互いを見つめ合った。
「由恵の部屋に行きたい。」
「そ、そんなっ。」
急にそんな事言われても、部屋だって片付けないといけないし。
「今夜由恵を抱く。それともホテルに行く?」
胸が熱くなった。
「抱くって……お願いされても……」
「お願いじゃない。君を抱くって言ったら抱く。」
額に軽いキスをされて、お泊りセットを持っていない私は、自分の部屋に行く事を承諾した。
タクシーで家に帰る途中、隣にいる杉浦君がカッコよく見えた。
この人はどうしてそんなにも、女性に対して自信があるのだろう。
家に着いて寝室に行くと、上着を脱いだ杉浦君が、熱いキスをしてきた。
服をスルッと脱がされて、あっという間に裸にされた。
「綺麗だ。」
その言葉に、ドキッとする。
そんなの、将成さんにだって言われているのに、どうして杉浦君だと身体が感じてしまうのだろう。
「この身体を抱けると思うと、優越感に浸れるよ。」
「あっ……」
杉浦君と一つになると、彼の気持ちが体に伝わって来た。
「ぁぁ……激しい……」
「激しくもなるよ。由恵をずっと自分のモノにしたかったんだ。」
杉浦君の吐息が、耳元で聞こえる。
「甘い言葉が好きなら、毎晩囁いてやるよ。もう俺のモノになれ。」
その強い言葉に、私の体も反応してしまうのだった。