冬 -Domestic Violence-
時間も遅く、私達以外のお客さんもちょうど帰っていたみたいで・・
気付けば、カウンターを挟んで厨房に立つ中野さんとのお話に夢中になっていた。
二次会の時は恥ずかしくて口を覆っていたけど・・・いつの間にか・・・
もう何年ぶりだろう・・?
私は久し振りに大きな口で笑っていた。
「玉子焼きにそんなにこだわるんですか・・?」
「大将には“俺の玉子焼きを作れたら一人前って認める”って言われてるんです。
もう何百回と不合格食らってるんですけどね。」
「そんなに繊細な物なんだ・・。」
「大切なのは卵を割って、
かき混ぜるその瞬間。
いかに最高の配分で空気を入れ込むかなんですよ。」
「食べてみたいけど・・
もうお腹いっぱいだなぁ・・。」
「ぜひ次お越しになった時は食べていってください。
玉子焼きの概念がぶっ飛ぶと思いますよ。」
「はい、ぜひそうします。」