冬 -Domestic Violence-


「さっき、“手持ちが少ない”
って言ってたから。」


「い、頂けませんよ。
大丈夫です。歩いて帰れるので。」


「・・・・・・・・・・・・・。」


「・・・・・?」


「・・・ごめん、あげるんじゃなくて、
貸すつもりだったから・・。」


「!!!?」


「・・フッ・・アハハハ!
なんかたまに俺たち噛み合わないですよね。

ごめん、俺が説明不足でした。」


「・・・いいんですか?」


「急がなくても大丈夫だから、お金に余裕がある時にでもまた食べに来てください。」


「ありがとうございます・・。」


「タクシー着いたら、
お連れ様運ぶの手伝いますね。」




「あ、あの・・・・・。」


「・・・・?」


「もし・・ご迷惑じゃなければ・・

連絡先・・交換させて頂いてもいいですか?」


「・・・・・え・・・・えー!!!?」


「ごめんなさい!やっぱり大丈夫です。」


「いやいやいや。勿論OKです。

ごめん、まさか上原さんから言ってもらえるとは思わなかったので・・・。」








爆睡を始めたリエを一緒にタクシーに乗せて、出発してもらった後も・・

私の頭は混乱が続いていた。


どうして・・・
もう無いと思っていたのに・・・


どうして・・・男の人に連絡先を教えるなんて絶対嫌だったのに・・・


どうして・・・・・
自分から言っちゃったの・・・?


タクシーの窓から見える景色が、
リエの家へと変わっていく中・・


私の目に映る車窓からは、
中野さんのくしゃっとした笑顔と・・

謙虚に、一生懸命夢と向き合う・・
甚平姿の真顔がずっと浮かんでいた。


















 




 




 



 








< 40 / 176 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop