冬 -Domestic Violence-
「さっき、“手持ちが少ない”
って言ってたから。」
「い、頂けませんよ。
大丈夫です。歩いて帰れるので。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・?」
「・・・ごめん、あげるんじゃなくて、
貸すつもりだったから・・。」
「!!!?」
「・・フッ・・アハハハ!
なんかたまに俺たち噛み合わないですよね。
ごめん、俺が説明不足でした。」
「・・・いいんですか?」
「急がなくても大丈夫だから、お金に余裕がある時にでもまた食べに来てください。」
「ありがとうございます・・。」
「タクシー着いたら、
お連れ様運ぶの手伝いますね。」
「あ、あの・・・・・。」
「・・・・?」
「もし・・ご迷惑じゃなければ・・
連絡先・・交換させて頂いてもいいですか?」
「・・・・・え・・・・えー!!!?」
「ごめんなさい!やっぱり大丈夫です。」
「いやいやいや。勿論OKです。
ごめん、まさか上原さんから言ってもらえるとは思わなかったので・・・。」
爆睡を始めたリエを一緒にタクシーに乗せて、出発してもらった後も・・
私の頭は混乱が続いていた。
どうして・・・
もう無いと思っていたのに・・・
どうして・・・男の人に連絡先を教えるなんて絶対嫌だったのに・・・
どうして・・・・・
自分から言っちゃったの・・・?
タクシーの窓から見える景色が、
リエの家へと変わっていく中・・
私の目に映る車窓からは、
中野さんのくしゃっとした笑顔と・・
謙虚に、一生懸命夢と向き合う・・
甚平姿の真顔がずっと浮かんでいた。