冬 -Domestic Violence-
「リエ。英語研修は順調?」
「え~っと・・まぁまぁです!」
「そう。頑張ってね。」
3ヶ月前から受けている研修の成果が、
まるで現れないリエへの不満が無いと言ったら嘘になるけど、
短大を卒業後、就職した今の職場に、
どこか居心地の良さを感じていた。
今の職場だからなのか、
これが社会人なのか、
学生と違って、
必要以上に距離を詰められることなく、
見た目や性格なんかも気にされない。
“仕事が出来れば良し”
以前の私だったらそれ以上を求めていたかもしれない。
でもそんなはっきりとした構図がちょうど良かった。
「上原。ちょっと来て。」
リエからお礼の飴玉を受け取ったところで、
先程まで誰かと電話をしていた川口主任が私を呼んだ。
「はい。」
「お前が提案してくれた貿易改革案、
やっと上にも認められたよ。」
「ありがとうございます。
川口主任のお力添えのおかげです。」
「これから本格的に進めていくことになるから頼んだよ。」
「はい。」
「残念だけど俺は手伝ってやれないから・・。」
・・?
川口主任は心残りのような表情を浮かべて私を見た。
「来月からアメリカ支社への転勤が決まった。」
「・・そうですか。」