冬 -Domestic Violence-
「成田。」
「あ、はい。」
「まだ状況証拠しか無いの分かってる?」
「いやでも、実際逃げ回ってるって事は、
そういう事じゃないっすか?」
「・・それが状況証拠って言うんだけど。
逮捕状を取る為にも物的証拠をあげるよ。」
「うぃっす!」
大学ノートの最後の2割。
そこにはシオリの・・悲痛なSOSとも取れる言葉が羅列されていた。
“玉子焼きが床に飛び散る”
“頬をビンタ”
“乱暴に服を脱がす”
しょっちゅう出てきたワードがこの3つで、
ヒドイ日なんかは・・
“結束バンドで手錠”
“包丁を突きつける”
“痛いと訴えても止まれない馬乗り”
「シオリはどうして周りに相談しなかったんすかね・・?」
「・・・・・・・・。」
「だっていつも日記の〆は“我慢”、“耐える”、“落ち着かせればいい”って。」
「・・・・・・・・・・。」
「それでも結局傷つくのは自分なのに。」
「逃げなかった被害者が悪いって言いたいの?」
「え・・・いやいや!
そういう意味で言ったわけじゃ・・。」
「“そんな短いスカートを履いてるから触られるんだ”」
「え・・。」
「“息子と普段からコミニュケーションを取ってないから騙されるんだ”」
「・・・・。」
「“良い子にしないから躾けをされるんだ”」
「・・・・・・・。」
「“そんな男に引っ掛かって、
逃げないから悪いんだ”
・・・・成田。」
「は、はい。」
「今回は特に、被害者を責めたら私が殴るよ。」
「はい!」
やっべぇ~・・・!
無表情のハルカさん程、
感情がこちらへ伝わってくる。
ホントにぶん殴られそうな威圧感にビビりながら署へと戻った。