濡れた月
そしてそこは「幸せ」を奪われた俺の大切な場所だった。

その日も、泉まで行って岩に腰掛け、月を見つめていた。


何十分経ったかは分からなかったが、空が白く染まり始めていた。

余り長く外にいると、誰かが気付いてしまうかもしれない。

今は誰にも心配をかける訳にはいかなかった。


俺は泉に浸していた足を水から引き揚げ、立ち上がり、ズボンを叩いた。

トコトコと歩みを進める。



だが、家に帰る途中、俺は異変に気付いた。


思わず足を止める。


このあたりは民家と民家の間に相当な距離がある。

そのため、家の周辺でこんな夜明け前に時間帯に、こんなに騒がしいことがあるはずがないのだ。


「何か」が起きている。


そう確信した途端、何故だか胸の奥に泣きたいような、込み上げるものがあった。

俺はたまらず、人の叫び声のする方向――新しい家――の方角に向って走り出した。

俺は森を駆け抜けた。
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