濡れた月
引っ越したばかりの小さな家から、
頼りになる父が、
優しかった母が、
喧嘩ばかりしていたが大好きな弟が、

何人もの屈強そうな男たちに「運ばれている」姿だった。


半ば担ぐようにして連れ去られた家族は人形のようで、人間でなくなっていることは明ら
かだった。

魂の入れ物だけの家族の姿を信じられないような、頭の中が白くなるような感覚とともに

見ていることしかできなかった。


ただ立ちすくむことしかできない。



「ぁ……あ…」

声にならない声が喉の奥で鳴っていた。

堪えられなくなって膝をつく。
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