濡れた月
当時、俺の父親は三神建設という建設会社を経営していた。

別に有名企業でもなく、地方の名もない建設会社だった。

特に裕福な訳でもなかったが、貧乏という訳でもなかった。

よくある中流家庭。


父さんは真面目なひとで、栄養ドリンク片手に、毎日遅くまで製図と睨めっこしていたものだった。

俺はそんな父さんが理解できなくて、「何で他人のためにそんなに頑張るの?」と尋ねた
ことがあった。

父さんは嬉しそうに、俺を抱きかかえて答えた。

「家を建てるのは、一大決心だろう?父さんはね、その期待に応えたいんだ」と。


母さんも、そんな父さんを必死で支えていて。

弟と四人、「幸せに」暮らしていたんだ。


あの日、事件が起こる前までは。
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