濡れた月
その日を境に「幸せ」はどこかへ消えてしまった。


両親は喧嘩に明け暮れ、まだ子供でどうしようもなかった俺は、部屋の隅で弟を抱きしめることしか出来なかった。

テレビを点けても新聞を開いても、目に入るのは三神建設のバッシングのニュース。


母さんはノイローゼ気味になっていた。

急激な環境の変化についていけなかったのだ。



一日中落ち着く暇はなかった。

電話は線を抜いた。鳴りっぱなしの電話に意はなかった。


窓の外には記者たちがうろついていて、外出なんか出来ない。

当然カーテンは閉ざされたまま。


祖母が持ってきてくれる食材だけが頼りの生活。

それも長くは続かないことは分かっていた。

年をとった祖母に負担をかけ続けることは出来ない。

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