間宮さんのニセ花嫁【完】



「あの、先日は本当に失礼しました! 弥生に聞いたらずっとご迷惑を掛けてしまったようで……」

「あぁ、気にしないで。あのまま一人で家を帰らせるのも上司として心配だったしな」

「いや、本当に……あの日の私はどうかしていたと言いますか」


いくら自暴自棄になっていたとしても社内の飲み会でああいう飲み方をするのは以後気を付けようと思う。
しかしあんなことまでしたのに全く怒る気を見せないというか、間宮さんってもしかして仏?


「それで、その時私……タクシーの中で間宮さんに凄く失礼なことを言ったような、気が……」

「……」


あまりその内容を思い出したくないので曖昧な表現でそう告げると、彼は暫くの間考え込んだあと、「あぁ」と、


「アレな」

「ほんっとうにすみません! いくら酔っていたとはいえ失言でした!」

「大丈夫、気にしてないから」


そう言って笑うと彼は自販機にお金を入れ缶コーヒーともう一本、ペットボトルのミルクティーを購入した。


「だけどいつもの佐々本に戻ってくれたみたいで嬉しいよ。また何か悩み事があったら仕事のことじゃなくても相談に乗るから、あまり溜め込むなよ」


ほら、これやる。そう言って彼は腰を曲げて自販機から購入したミルクティーを私に差し出す。
あまりにも自然な流れだったので疑問もなく受け取ると「戻るか」と来た道を戻っていく。

間宮さん、本当人として出来過ぎです。手に持っていたペットボトルを眺めながら感動に浸っていると、後ろから「そういえば」と声が掛かる。


「佐々本、金曜日の夜って何か用事あるか?」

「今週、ですか? 何も」

「ならちょっと飯付き合ってもらえるか?」


え?と彼の言葉に首を傾げる。


「二人で話したいことがある」


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