間宮さんのニセ花嫁【完】
嬉しさが込み上げて爆発してしまった。梅子さんのお叱りに素早くその場に座った私とは対照的に冷静な間宮さんが再度確認するように尋ねる。
「本当にいいのか?」
「それを望んでいたのは貴方じゃないんですか?」
梅子さんの言葉に黙り込んだ間宮さんの表情は驚きに満ちており、未だに現実を受け入れられていないように思えた。
それでも間宮さんがこの家を継ぐことは確定した。第一の試練を突破したといっても過言ではない。
「尽きましては」
会話を続けると梅子さんは扉の向こうに向かって「入りなさい」と呼び掛ける。すると一人のお手伝いさんが「失礼します」という声と同時に引き戸を開け、中に入ってきた。
彼女は手に持っていた一枚の紙切れを私たち二人の前に敷くとその手前に万年筆を置いた。
「尽きましてはこちらの書類に署名してください。そうしたら千景を跡取りにすることを認めましょう」
そう差し出された紙切れに書かれている文字に私たちの動きが止まる。
その紙の一番上にセピア色で印字されているその文字は、堂々と「婚姻届」と書かれていた。
……へ?
「私の"目の前"で、です。いいですね?」
梅子さんが初めて向けた穏やかな笑みは、私たちを窮地へと陥れたのでした。