間宮さんのニセ花嫁【完】



それから暫くして、約束の金曜日となった。
その間も間宮さんと会話を交わす場面はいくつかあったが、どちらからも金曜日のことは口から出されることはなかった。

本当に約束していたのか、私の単なる勘違いではないのだろうか。
当日になってそのような不安に駆られたが、定時を過ぎた頃に営業で外に出ていた彼からLINEで連絡が入る。


【お疲れ様。仕事は終わったか?】

【営業先からそのまま向かうことにするから店で合流したい。この店まで来て欲しい】


そう言って貼られていたお店のURLを確認すると私は荷物を鞄に詰めて腰を上げる。
すると隣のデスクの弥生が「何かあったら教えてよ」と言わんばかりに見つめてくるので軽く頷いて会社を後にする。

そんな心配することはないはず。でも一体話というのは何だろうか。
そう軽く考えていた私だが、間宮さんに指定されたお店に辿り着くと自分の浅はかさを酷く後悔する羽目になった。

地図しか見ていなかったが指定されたレストランは都内でも有名な一流ホテルに内接されたイタリアンレストランだった。
ホテルの前でその建物の大きさにあんぐりと口を開け、まさか店を間違ったんじゃと再度スマホの画面を確認する。

しかしその心配は必要なかった。


「佐々本、待たせた」

「ま、間宮さん……」


約束をしていた相手である間宮さんが颯爽と現れ、この店で間違いないという確証を得た。
しかしスーツを着ている間宮さんならまだしも、オフィスカジュアルな格好でこのホテルに入るのはなかなかの勇気がいるような。


「予約の時間もあるから中に入ろうか」

「(ほ、本気でこの店なんだ!)」


てっきり私は居酒屋とか、普通のご飯屋さんでの話になるの思っていた。


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