間宮さんのニセ花嫁【完】
はぁ、とエントランスに入ろうとするとその玄関に黒い人影が見える。こんな時間に帰ってくる人が他にもいるのかと素通りしようとする。
しかしその人物の正体に気が付くと「え、」と脚を止める。
最後に連絡が来た日振りに見た聡の姿は最後に見た時よりも痩せ細っており、一瞬誰が分からなかったからだ。
「良かった、やっと会えた」
「っ……」
笑顔で近付いてくる聡に一瞬後ろは下がると、それを見て困惑の表情を浮かべた。
「どうしたんだよ、久し振りすぎて彼氏の顔忘れたのかよ」
「は、彼氏って。何言ってるの、私たち別れたでしょ」
「飛鳥こそ何言ってんだよ」
意味が分からないと首を傾げてる聡に違和感を覚える。どうしてこの人は何事もなかったかのように私に接することが出来るのだろうか。
「取り敢えず家に入れてよ。お前に合鍵取られたから俺ずっとここで待ってたんだよ?」
「無理に決まってるでしょ。ていうか勝手に来られても困るんだって!」
話が通じていない恐怖に彼の身体を押し退けてマンションに入ろうとする。
しかし咄嗟に腕を掴まれて身動きを封じられると聡は笑顔を浮かべたまま顔を近付けた。