間宮さんのニセ花嫁【完】
それからというものの、聡は頻繁に私のところに押し掛けてくるようになった。
殆どは仕事帰りに私のマンション付近で待ち伏せているものが多く、その度に言い争いになったり、姿を見つけたら遠回りをして家に帰るなどをして回避していた。
しかし徐々に彼の行動にフラストレーションが溜まりつつある私はこの数日間で明らかにやつれた。
事情を知っている柳下くんは「帰り送りましょうか?」と心配してくれるが、何の関係もない男の子を巻き込むわけにもいかない。
そんな感じでなかなか解決せずにいたある朝、会社に着くなり弥生が「ちょっと!」と物凄い形相で駆け寄ってきた。
「ど、どうしたの弥生」
「どうしたのじゃないって! 昨日帰る時に変な男に絡まれたんだけど!」
「え?」
まさか、嫌な予感がする。
「飛鳥の彼氏だって名乗る男がさ、今ここで飛鳥に電話掛けろって言うのよ。飛鳥彼氏と別れたって聞いてたし何かの間違いだと思って直ぐ逃げたけど」
「……」
「飛鳥?」
許せない、弥生にまで迷惑をかけるだなんて。このままじゃ駄目だと握り拳を強く握る。このまま逃げてばかりじゃ何も解決しない。
きっと私が文句を言うのが一番効果がある。長年付き合っていたからとか、前は好きだったとか、もうそういうことは関係ない。
聡のことを甘く見ていた。