間宮さんのニセ花嫁【完】
今日こそ言うんだ、もう私に関わらないでと。聡のことはもう好きじゃないって。
きっとまたマンション付近で待っているんだろうとビルを出た私は後ろから名前を呼ばれ言葉を失う。
まるで恋人を待っていたかのようにオフィスの前のベンチに腰掛けていたのは聡で、私を見つけるなりこちらに駆け寄ってくる。
「な、どうして……」
「どうしてって、飛鳥が逃げ回るからだろ?」
「だからって会社まで来ないでよ!」
すると機嫌の良かった聡の表情は一瞬で怪訝なものに変化する。私の言っていることが納得いかないという表情だ。
「飛鳥、冷たくなったよな。俺たちあんなに仲良かっただろ?」
「……」
「な? もう一度やり直そう? 俺気が付いたんだよ、お前が一番大事だって」
それを、何故今? 肩に掛けていた鞄の紐が千切れるくらいに指が食い込む。
どうして私が裏切られたのに、聡が傷付いたような素振りをするの。
彼はあっけらかんに笑いながら自分の頭を掻いて、
「お前、結婚したかったんだろ? もう俺改心したからさ、ずっとお前に任せっぱなしで悪かったな!」
「っ……」
結婚……そうだ、私この人の結婚したかったんだ。
なんで、
「(なんで、この人と結婚したかったんだろう……)」