間宮さんのニセ花嫁【完】
今はその記憶すら思い出せないほど、二人の思い出は遠くの方にあった。
聡とよりを戻せば、もしかしたら本当に私が望む結婚ができるかもしれない。彼だって改心して私だけを見てくれるようになるかもしれない。
結婚したい、そう思っていたはずなのに……
そうか、私……
「(この人とは結婚したくない)」
ずっと間違っていたんだ。
「佐々本?」
「っ……」
その声にハッと顔を上げると、営業から戻ってきただろう間宮さんが私たちのことを不審そうな顔で見つめていた。
彼の顔を見て安心したと同時に、自分が惨めに感じて逃げ出したい気持ちになる。
「あんた、この間飛鳥の部屋に入っていった……」
そういえば聡は間宮さんが私の部屋に入っていくのを見ていたという。だったら彼に恋人のふりをしてこの場を切り抜けることも可能である。
頼りたい、だけど誰か見ているか分からない会社の前でそのような軽率な行為は出来ない。
すると目の前にいた聡が「は、」と言葉を吐き捨てるかのように笑った。
「なに、俺と別れたばっかなのにもう他の男と遊んでんの? それって俺のしていることと変わらなくない?」
「……」
「俺と離れて寂しかったのを他の男で埋めてただけだよな?」
な?と強い脅迫概念のようなものが私の腕を強く掴んだ。
今ここで従ってしまえば間宮さんに迷惑が掛からないかもしれない。だけどこんなの誰も得しないだろう。
私がしてきたことって、一体……
「そうだよ」