間宮さんのニセ花嫁【完】
自分の頰を押さえると誰よりも冷たく鋭い目を聡に向ける彼。
「満足したか? だったらもうここから去ればいい」
「っ……あ、」
本気で殴るつもりはなかった様子の聡は同じく赤く腫れた自分の手を見て目を大きく見開いた。そして子犬のように助けを求める目付きで私によろりと近付く。
「あ、飛鳥……俺……」
「っ……」
私は前にある間宮さんの腕を強く掴むと今日一番の怒号を上げた。
「お願い、帰って! そしてもう二度と私と周りの人に迷惑を掛けないで」
「飛鳥……」
「次したら……警察に言うから」
彼はその言葉に「は、警察?」と乾いた笑い声を漏らす。しかしようやく事態を理解出来たのか、よろけた足取りで後ろへ退き始める。
「警察って、お前冗談だろ?」
「……」
「……は、何なんだよ。お前みたいな阿婆擦れ、こっちから願い下げなんだよ!」
そんな捨て台詞を吐くと彼は私たちに背中を向けて一目散に何処かへと走り去っていた。
聡の背中が見えなくなると私は慌てて間宮さんの前に回り、その顔を確認する。するとやはり聡に殴られたところが赤黒く腫れているのが目に入った。