間宮さんのニセ花嫁【完】
彼の言う「二人で話したいこと」の内容が気になって仕方がなく、メニューの内容が全く頭に入ってこないのを察したのか、間宮さんは「好き嫌いないか?」と尋ねる。
「は、はい」
「だったら俺の同じコースでも大丈夫か?」
「あ、是非」
と言ってもメニューに日本語が無さすぎて何が何やら分からない。
間宮さんが店員さんを呼ぶと慣れたようにコースを注文する。メニュー表を口元に当てながら「何でも絵になる人だなぁ」と再確認する。
そして思う、やはり弥生の言うようなことはないだろう。こんなに素敵な人が私のことを好きになるなんてことがあるか。
「悪いな、静かな方が落ち着くかと思ったけど緊張させたみたいで」
「い、いえ!」
「話は食事が終わった後にするから、取り敢えず今は食事を楽しんでほしい。その為に選んだ店だからな」
「……」
間宮さんの穏やかな口調に私は静かに頷く。こういう彼の言葉には説得力がある。それは仕事場でも嫌という程に感じる。
彼がこう言うのだから、今は後の話を気にせずに食事に集中するのが正解なのかもしれない。
彼の勧めもあって二人でワインを注文するとコースが届く前に夜景を背景に乾杯を交わす。
「佐々本とこうして二人でお酒を飲むのは初めてかな」
「そうですね。飲み会だと人が多いですし」
「佐々本は営業部のムードメーカーで助かるよ。雰囲気を盛り上げるのも上手いし」
「ただ騒がしいってだけなんですけどね」
だけどやっぱり直属の上司からそう褒めてもらえるのは嬉しい。なにせ心の底から尊敬している先輩でもあるし。
今日は飲み過ぎるなよ、という間宮さんの揶揄う声に顔を赤くしながら赤ワインを口に含ませる。元よりお酒は好きな方だったのでアルコールが身体を巡り、一週間の疲れを癒す。