間宮さんのニセ花嫁【完】
それから数日後、私は間宮家の廊下を歩いていた。
桜さんに間宮さんの居場所を聞き、早足で彼の自室へと向かう。この数日間で見付け出した答えが変わらぬうちに彼に伝えたかったからだ。
彼の部屋の前までくると引き戸の前でその名を呼んだ。
「千景さん、私です。お話ししたいことがあります」
「……どうぞ入って」
引き戸を開けると間宮さんは読書の最中だったようで、読んでいた文庫にしおりを挟むとテーブルの上に置いた。
彼の真正面に腰を下ろし正座すると、目を逸らさないように真っ直ぐに彼を見据えた。
「結婚について、私なりに考えた答えが出たので聞いていただきたいです」
「……分かった」
改めて偽装結婚について色々と省察した。籍を入れないとはいえ彼と結婚することは間違いなく、私は一度『間宮飛鳥』という人間になる。
それが私のこれからの人生にどう影響を及ぼすのか、今の段階では判断がしづらい。しかし今後、私がこれからの人生をずっと共にしたいと思う人と出会った時、この結婚を後悔する人がきっと来る。
それでも、
「最初の契約通り、最後までこの役を全うさせてください」
ここで降りたら、私は近いうちに後悔するだろう。