間宮さんのニセ花嫁【完】
「温泉ですか! いいですね!」
「ふふ、そうでしょう? 新婚旅行にぴったりだと思って」
……ん? 新婚旅行? 頰をピンクに染めている桜さんを向いて私は首を傾げた。
「飛鳥さんと千景、新婚旅行まだよね?」
「ま、だですけど……え?」
「何処の温泉がいいかしら。海外も素敵よねー」
追いつけない速さで話を進める桜さんに頭が混乱する。新婚旅行? 旅行って私と間宮さんが二人で!?
いやいやとうっとりと微笑みを浮かべる彼女に待ったを掛けた。
「あ、あの、私たち新婚旅行は」
「いいんじゃないですか?」
「え!?」
話を聞かれていたとは知らず、突然口を挟んだ梅子さんの言葉に呆気に取られる。
「このところ気を休めていませんし、気分転換にでも」
「そう言っても……」
「それに貴方たち、初夜がまだでしょう」
「初っ……ゴホゴホッ!」
まさかの単語に噎せ返ると顔に熱が溜まっていくのが分かる。しょ、初夜って! 何を言いだすんだこの人!
慌てる私の隣で桜さんは「あらあら」と意外そうな表情を浮かべる。
「確かに部屋も別ですし、実家でいたすというのも」
「桜さんまで何を!?」
「素敵な旅行先を探すから楽しみにしてて?」
ふふ、と満足げに花を咲かせて微笑んだ彼女はパンフレットを片付けると颯爽と今を部屋を出ていった。
結局新婚旅行の提案を断れないまま、部屋には梅子さんがお茶を啜る音が鳴り響いた。