間宮さんのニセ花嫁【完】



「それに折角の旅行なんだから楽しまないとな」

「うっ……」


助手席で旅行先である温泉街のパンフレットを開いていた私をチラ見する彼。プライベートの旅行は会社の慰安旅行を除けば久し振りだし浮かれてしまうのも仕方がない。


「(凄く楽しみにしてるって思われた。恥ずかし……)」


だけど楽しみなことはもう一つあって、こうして間宮さんと二人で過ごすのって凄く久し振りな感じがする。
運転している彼の左指に収まっている結婚指輪を盗み見ると自然と口元が緩くなるのをパンフレットで隠した。

(仮)だとしても、一人新婚気分に浮かれるのも悪くないかもしれない。そんな私の気持ちも乗せて、車は目的地である温泉へと向かっていった。


車を走らせること三時間、途中SAで休憩を取りながら辿り着いた旅館の駐車場で大きく息を吸い込んだ。


「はぁー、いい空気。すみません、ずっと運転任せてしまって」

「大丈夫だ、疲れただろう。部屋でゆっくりしよう」


桜さんが部屋を取ってくれた老舗旅館は百年も歴史が続く人気旅館らしく、その立派な佇まいに心奪われる。新婚旅行と言われて最初は驚いたが、こんな素敵な旅館に泊まれるなんて、桜さんありがとうございます。


「チェックインしてくるからここで荷物見ててくれ。一緒にもう一部屋取ってくるよ」


そう言って受付へ向かった間宮さんを見送るとエントランスのソファーに腰掛けた。


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