間宮さんのニセ花嫁【完】



部屋が別々なのであれば問題はないし、夜は心配せずに一泊できそうだ。

内装も素敵だなと辺りを見渡していると向こうからこちらに向かって歩いてくる女性が見える。
人違いかなと思っていたが近付くにつれ明らかになる容姿に「え゛!?」と女子とは思えない声を上げた。


「飛鳥〜、元気にしてた?」

「お、お母さん!? それにお父さんも!」


こちらに近付いてくる女性は旅館の着物に身を包んだ母であり、その後ろから遅れて歩いてくる父の姿もある。どうしてここに二人が!?


「な、何してるの!?」

「何って旅行よ〜。飛鳥が間宮くんと温泉行くって聞いてから私たちも行きたくなってねー」


温泉に入ったあとだからか、母の肌が心なしがツヤツヤしている。そういえばこの間連絡した時に旅行の日程と旅行先を教えていたんだっけ。


「ところで間宮くんはどちらに?」

「っ……」


いかん、このまま部屋を別々にしようとしていることがバレたら関係を疑われてしまう。
しかし受付にいる間宮さんの姿を見つけた彼女は「間宮くーん」と御構い無しに飛んで行ってしまい、慌ててそのあとを追い掛けた。

駆け寄ってくる母に「え、」と驚きを隠せない彼。


「どうしてここに」

「私たちも"たまたま"旅行で来てまして〜」

「マジか……」

「(間宮さんが『マジか』って言った……)」


彼の口からそんなぞんざいな言葉が出てくるなんて、それほど母たちの登場は予想だにしていなかったのだろう。
すると受付の従業員の女性が呆気に取られている間宮さんに声を掛けた。


「もう一部屋の準備ですが……」

「もう一部屋? なんのこと?」

「っ……」


首を傾げた母に間宮さんは慌てて「また後で来ます」と告げると四人でその場を後にした。


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