間宮さんのニセ花嫁【完】
というか心配なのはそこじゃない。もっと別の問題なのだ。
「……ベッドですね」
「ベッドだな」
「「……」」
そう、桜さんが予約したこの部屋は和洋室、つまり寝る場所は布団ではなくダブルサイズのベッド一つなのである。
部屋が広いので布団であれば襖で仕切りを作り、別々に寝られるという手もあったのに……
『新婚旅行(仮)計画』が、まさかこんなに最初で躓くなんて。
「まぁ、俺は畳の上だったら何処でも寝られるからベッドは飛鳥が使ってくれ」
「そ、そんな! 駄目ですよ!」
「いいんだ、俺のことは気にしなくていい」
「っ、そういう考え方、駄目って言いましたよね?」
自分が我慢すればいい、彼の中心にあるその思想はここでも揺るぎないらしく、私がそう指摘すればハッと我に返りバツが悪そうにした。
と言ったってこの状況を打破する策が思い付かない私が言う言葉じゃなかった。こうしているうちに刻々と時間は経っていってしまう。
すると間宮さんは悩ましげにする私を見てふっと笑みを漏らした。
「飛鳥らしく、前向きに考えたらいいんじゃないか?」
「前向き?」
「折角旅行に来たんだ、楽しまないと損だろう。考えるのは後にして先に観光に行かないか?」
た、確かにずっとここにいたって解決することではないけれど。
彼の言う通り今は頭を落ち着けるのが最適解なのかもしれない。その考えに辿り着くと私たちは腰を上げ、温泉街に繰り出した。